愛とドブの区別

aoiaoi

さようなら

たった5文字が言えなかった。

「さようなら」の5文字が。



言えぬまま、無意味ないさかいを繰り返した。

やがて、諍いすら起こらなくなった。

思い出したくもない不快感を互いの身体に満たし、薄汚れた夜ばかりを積み重ねた。




なぜ、言えなかったのか。



愛してたから。


間違いなく、愛していたのだ。

過去のどこかまでは。



いつからだろう。

それがただの勘違いに変わり果てたと——そう気づいてしまうのが、怖かったから。




薄暗く冷え切った明け方の部屋。

ため息すら気怠く、焦点の緩んだ視線を横へ投げる。


触れたくもない剥き出しの背が、隣で寝返りを打つ。



音に耳が引かれ——ベッドの上の目覚ましを、じっと見つめた。



小さな秒針の音。

その微かな音が、突然巨大な轟音になり、耳から私の脳の奥底へ襲いかかった。




絶叫したい強烈な欲求を、ギリギリと奥歯を噛んで抑え込む。




決して戻ってこない、この一秒一秒。

どれほど宙を掻き毟っても取り戻せない、この刹那。

こんなにも愛おしいものを——

一体私はどれだけ、ドブに捨ててきたのだろう。

死に物狂いで遡り、何かを取り戻したいのに。

その何かが、わからない。




そんな恐怖の波が行き過ぎると——

私はまた自分を嘲笑しながら、ベッドサイドのぬるい缶ビールを呷る。





大切なものをなくしました。





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