第一説 出会いは薄味 5
車両が停車し護衛の人にドアを開けてもらう。街から少し離れた山の中腹ぐらいに目的地はあった。
どうやら街を一望できる場所に建てられており、素晴らしい景色が広がっていた。
ただ気になるのは…
「屋敷?」
建物がどう見ても住宅用なのだ。仕事場に案内するという話を聞いていたので面食らってしまった。
「あぁ、少し混み合った事情があってな。それはここの代表が説明してくれるだろうよ」
そう坂梨が言うと顎で玄関の方を向くよう促す。視線を向けるとそこにはスーツを着た女性が一人立っていた。
茶髪で短く切り揃えており、色白な肌が顔の各パーツをより際立たせる。長身でモデルのような体型は同性であっても惹きつけられてしまう。
女性は一歩前に出てこう言った。
「ようこそ、
屋敷へと足を踏み入れると、下駄箱を伴った玄関が現れた。やはり住居として使われているようで、館内を見渡すと日用品がいたる所で目につく。ふと下駄箱の上に備え付けられている館内見取り図を見ると、人の名前のプレートが貼られていた。どうやら各自に個室が割り当てられているようだ。そして名前の下に外出中の札がかけられている。
「…全員出払っているのか?」
坂梨も同じものを見ていたようで女性に質問をする。
「ええ、私以外全員外出してますよ」
女性は短く返答しただけで言葉を続ける様子もなく、そのまま案内を続ける。坂梨は女性の返事を聞いてどうやら安心したらしく、緊張の糸が切れた様子だった。
女性に案内された先は客室だった。ここも普段は生活の場に使われているようで、棚には書物やファイルとともに日用雑貨が置いてなあった。
「どうぞお掛けください」
女性に催促されソファに座る。
「粗茶しかありませんが、構いませんか?」
「いらん。どうせ長居するつもりはないからな。早く本題に入ってくれ」
坂梨の返答を聞くと女性は頷き、向かいのソファに座る。そして彼女は私と顔を合わせる。
「改めまして、私は
「今日からお世話になる黒喇玲李です。よろしくお願いします」
短い挨拶を済ませ、私たちは直ぐに手続きへと移行する。
十分ほどで手続きは終了した。
「終わったようだな。俺はこの後用事があるから、付き添いはここまでだ。頑張れよ」
仕事を押してまで私の用事に付き合ってくれた坂梨に感謝な言葉を贈る。礼を受け取り笑顔を返した坂梨は、水城の見送りを断りそそくさと客室を出て行った。
「次はあなたの部屋を案内しないとね」
私たちは立ち上がり客室を後にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます