第一説 出会いは薄味 3

 目的地に着いた時、すでに坂梨は待ち合わせ場所に到着していた。

 私は坂梨に近づき声をかける。

「おじ様!」

「おお、嬢ちゃん。ずいぶんと早かったな」

「ええ。逸る気持ちを抑えきれませんでした」

 坂梨は微笑み、一言そうかと言った。

 私がこれから新生活を始める場所を少し見て周りたいという、無茶なお願いを叶えてもらった。当然護衛はいたが目立たず周囲に溶け込んでいたので、傍目からは一人で散歩していたように見えただろう。

「ちょうどいい時間だし、これから向かうか」

 車両に乗り込み、目的地まで一直線に進む。期待に胸を膨らませながら、坂梨と談笑する。


 目的地に近づくにつれ、何だか無性に落ち着かなくなってきた。

 ただ気になるのは私以上におじ様や護衛の皆さんがソワソワしていることだ。

 おじ様との会話も長続きせず、護衛の皆さんは明らかに緊張感が走っている様子だ。運転手に至っては、ハンドルを握る手が震えていた。

「…もしかしてこれから行く所って、恐ろしい場所なの?」


「…………………………………」


 車内が沈黙で覆われる。

「イヤ、そうでも…、ソウダネ」

 声高に否定しておきながらすぐに事実を吐いたおじ様。私の質問を聞いた途端に半笑いになりつつ、引きつっていた護衛の皆さん。

 おじ様は調子を整え、ゆっくりと語りだした。


「…規格外の奴が一人いるんだ。人格も、思考も、〈能力〉も」


 〈能力〉、それはある日を境に人に宿るようになった不思議な力。誰にでも宿るその力は人の闘争を激化させた。世界中の至る所で火種を生み、世界は争いで満たされた。


「〈能力〉が世界に与えた影響は大きい。個人の持てる武力が倍増し、いつでも戦争を始めることができるようになったからな」


 ゆえに国は全ての人民をコントロール下におく、厳格な管理社会を築き上げる必要がでてきた。しかし表向きに事を進めて人々の無用な反感を買い、国内が騒乱で荒れることを何よりも恐れた。


「ゆえに国は人々の徹底した管理に着手した。当然表向きにやってしまえば、国民の風当たりが強いことなんて目に見えていた。だからこそ裏で慎重に進められた」


 世界中の国々で同様の対処法がとられた。長い年月を掛け、戦火の規模を縮小させていった。少なくとも国を揺るがすレベルの闘争は確実になくなっていった。


「その結果、裏社会の重要性は増し大規模な戦争は起きづらくなった。だが、それでも争いがなくなったわけじゃない」

 おじ様は一拍おき、私の方へ視線を向ける。


「そんな、今の社会を体現したようなやつがいるんだよ」

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