理性によろしく

甘蜘蛛

プロローグ?

   ———わからないことばかりです。この状況に辟易してます。

 そんなことを言っている愛すべき隣人の顔には明らかな疲労が窺える。本人はそんなことを感じさせまいと必死に取り繕い、僕に対して非難がましい目を向けてくる。

   ———そんなこと言わずにさ、機嫌良くしてよ。

 わざとらしく、いじらしく返答すると今度はジト目でこちらを見つめてくる。何か言いたげな顔をしており、どう反応を返そうかと思案する。

 が、途中でやめてしまった。どうもそんな状況でもないらしい。わかってはいたけど。

   ———これからどうするの?考えはあるの?

 態度には出そうとしないくせにずいぶん弱気なことを口走るなぁ。

   ———何とかなる…、はず?、たぶん。…信じて?

 マジか。人のこと言える状況でもなかったらしい。仏頂面に笑みが零れる。そんな姿を見て僕も自然と口角がゆるんでしまう。こんな状況で笑っていられるのも僕たちの数少ない長所の一つなんだろう。ただ僕の純粋な笑みと違って苦笑だったことはいただけないのだが。

   ———やれるだけやるよ。まぁ期待はしないで?

 僕はどんな顔してるんだろうか。微笑んでる気がするけど、表情が想像できない。自分の顔なのに。

   ———…期待してるよ。だってあなたは…

 話を全て聞き終える間もなく行動する必要があった。絶望的な状況の中にあっては仕方のないことだろう。

 すべて終えてからもう一度聞き出せばいいか。

 

 


 

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