第7話(完)

「こんな所でいいか」

「ああ、助かったぜ。こいつは借りにしておく」

「借りだか貸しだか知らないが、全部消しておいてくれると私としては嬉しい。その手紙はしまってくれ。で、約束通り、このメモはこちらが貰うぞ」

「無論」


 ユスティナは紙を丸め、懐にしまう。

 あとはゴミの回収時間寸前、街頭のゴミ箱に放り込めばそれで済む。


「助けるのは構わないが、頼むから私の立場を考えてくれ」

「今後、お互い様なこともあるかも知れないぜ?」


 マーシャが言葉を濁している事には気づいた。

 分かった、とまでは明言してない点には。

 そこに気づいているとの旨を含ませて、ユスティナも言う。


「――そうでないことを願うよ」


   ・


「まあ何だ、それなりに面白かっただろ。こいつがきちんと届いてみろ。んで、ウチが勝ったなら、だ。その時はお互い、歴史の片隅に名前が残るぜ」

「その時は私もお前も失職だよ。お互い、求職活動と行こうじゃないか」

「おいおい、そりゃちょいと無理な話だな」


 裏切られたときの顔は、少し出ていたかも知れない。


「何しろ、こっちには基盤的ユニバーサルなドルの蓄えがあるからな。もし名前が残るんなら、その時は片田舎で隠居だよ、隠居。……んで片田舎へだ、一緒に楽しく引っ越そうぜ?」


 ついでの様に、こうつけ加える。


「あと、これは餞別だ」


 取り出したのは、片手に収まる銀色の機械だった。いくつかのボタンと小窓がある、ちょうどカセットテープほどの大きさの。

 なるほど、とユスティナは思う。持ち運べるこのサイズの再生機械。大金を払う者がいて、おかしくはないかも知れない。


「カセットの中にゃ音楽が入ってる。受け取ってくれ、外側はおまけだ」

「――そこまで高いものは受け取れない」

「最新型じゃねえんだ、想像ほどじゃねえよ。だがいろいろ面白い。ほらこれ、側面に穴が2つあるだろ」


 さらに取り出したのは、イヤホンが2つ。


「これで二人同時に聞けるって寸法だ。絶対、友人ダチが多い奴の発想だぜ。ともあれ音楽、一緒に聞いてみようじゃねえか」

「一曲だけだぞ。この後、そちらの便が終わったら、だ。まともに寝といてくれよ」


 そうして、二人はイヤホンを耳につける。

 マーシャが再生ボタンを押し込み、ほどなく歌は始まる。


  ただ貴方の前でだけ、夜通し私を見せられる

  ただ貴方の前でだけ、決して何も隠さずに――   (了)

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初夏の密書 祭谷 一斗 @maturiyaitto

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