第6話

「政府じゃないアメリカって……そりゃ一体、何だよ」

「マーシャ、今この手紙をやり取りしたい相手は」

「ハーバード大学に決まってるだろ」


 一瞬の間。

 ほどなくの気づき。


「まあ大学なら、ポーランドポルスカにはねえわな。アメリカの……新聞屋か?」

「――当たりだ。TV屋はいま入っていない、必然そこしかない」

「感謝するぜ、早速……」

「まあ待て、早まるな。直接はやめておいた方がいい」

「だが時間はねえ、直接行かないことにはどうする」

「新聞屋が警戒されてないとでも? アメリカの政府よりはウチの警戒が働いてないと言うだけだ。真正面からの直接はお薦めできないな」


 マーシャからの、続きを促す顔。

 話をリードするのも、これはこれで悪くない気分だ。


「なら、どうするよ」

「直接の反対は?」

「……間接だろ」

「正解。つまり、売り込んでもらうんだよ――同業者に」


 そのまま、ユスティナは続ける。


「保証には同業者を使う。秘密裏の情報受け渡しなら、私たちよりあちらの方がプロだろう。もっと言えば、手段の方もこちらで気にしなくていい。どうするかは知らなくとも、どもあれ先方に届けばいいんだろう」

「ああ。しかし最初が人づての地球半周か。面白えが、難しくねえか?」

「簡単じゃないのは確かだな。だが勝算のある賭けだ。同業者からアメリカの新聞社への手紙リレーだ。まず相手の信用を担保に、それで突破してもらえばいい」

「頼りにするは先頭ランナーの職業倫理、か」

「そこは信じるしかないな」

「信じる、ねえ……」

「なあマーシャ」


 いっそ穏やかに、ユスティナは言う。


「この際はっきり言っておく。ウチにとって、外国の新聞屋は厄介なんだ。戒厳令だって法王のお気に召さない、ただでさえイメージがそう良くない今、少なくとも下手な手出しはできない」

「……だろうな」

「こちらにとって厄介という事は、だ。マーシャ、君らにとってはどうだ?」


 沈黙。やがて、幼馴染は口を開く。


「どうも、やり返されたらしいや」

「世辞はいい」

「……素直な感想なんだがな」

「いいから続けるぞ。後は、アメリカ以外のどこの新聞に持ち込むかだ」

「どこでも良い……て訳はねえよな」

「職業倫理にも色々あるからな。少なくとも、保身が走るタイプは駄目だろう。私の案としてはこうだ。去年、外国新聞社の新しい支局ができてる。そこを使う」

「おいおい。作りたてなら、なおさら危険を侵さなくねえか?」

「――まさに、そこだよ」

「あん?」

「つまり、だ。できたての支局に赴任する人間は、どういう性格なのか――どう思う?」

「……分かった、続けてくれ」


 どうやら、また興味を惹いたと見える。

 考えを変える素早さも、この幼馴染の長所だ。


「確かに、早々には危険を冒さないだろう――と、これが普通の考えだ。警戒も緩い。だが私の見立ては少し違う。問題は、個人としてどう考え得るかどうかだ。功を欲する若手か、それとも保身が勝るベテランか。マーシャ、その支局に赴任してるのは、どちらだと思う?」


 かすかな笑みとともに、答えが返される。


「若手、なんだろうな」

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