第5話

「――検討と行こう。紙、あるか」

「書き損じなら何枚かあるぜ」

「なら紙は出してくれ、ペンはある。ただし紙はこちらが持って行く、内容はそちらが覚えてくれ」

「ああ」


 差し出された紙1枚。

 表裏を確かめ、裏の無地を見て取る。

 そしてテーブルの上に、まずは広げた。


「数日でアメリカに届けるなら、いろいろ限られるな――大雑把にだが、ともあれ可能性だけは書くか」


 懐からペンを取り出し、ユスティナは通信の選択肢を記していく。


  ・電話

  ・テレグラフ

  ・FAX


「おい、アーパネットを忘れてるんじゃねえか」

「聞いたことないな」

「主に大学同士をつなぐ回線網だ。秘匿性も高い、一瞬で文をやり取りできる」

「それは便利だな、なぜ使わない」

「十数年後には使ってるぜ」

「つまり実用化されてないと――帰っていいか」

「……いや悪い、まだ帰らないでくれ」


 立ち上がりかけ、また座り直す。


「あまりふざけると、本当に帰るからな。ああ、念の為に聞いておくが、この場で録音とかそう言うのは無いよな?」

「する訳が無えだろ」

「ならいい。何しろ、実物があると言い訳が利かないからな」


 真正面からは嘘をつけない。幼馴染はそんな人間だった。

 頭こそ回るが、決して器用と言う訳ではない。

 そんな顔を見た者はほとんど居なかったけれど。


「――疑って済まない」

「謝ることはねえ、もっともな言い分だろうさ。カセットデッキも、いまどき片手サイズだからな。西側の島国ならそこらの路上で売ってる」

「それが本当なら、確かに便利そうだな」

「こいつは実用化済みだ。ただし高い、ざっと300ドルからだ」


 思わず、ユスティナはため息をつく。

 それにはいったい、何ヶ月分の労を費やせばいいのだろう。

 新しい機械を一介の党員が手にできるほど、ポーランドポルスカの給与は恵まれていない。


「話を戻すぞ」

「ああ。この辺りの電話が押さえられてるのは知ってる。テレグラフはどうだ」

「機械が限られる分、もっと駄目だろうな。どうにも――」


 わずかに考え、ひとまずの結論を出す。


「必然、FAXだな」

「あん? あれは盗聴できねえのか?」

「無論できる」

「……なら意味ねえだろ」

「最後まで聞け。あれを盗み聞くなら、基本は発信元と着信元の機械なんだ。二箇所が意外に堅い。おまけに電話と違い話が早い。仮に気づかれても、中身を知られるのがせいぜいだ」


 しっかりしていれば、に含みを持たせた。

 根拠を示すと同時、その先まで手伝うことはできないとの意だ。


「ただし、その伝手はない。少なくとも、私の方には」

「こちらにも、ねえな……」

「八方ふさがり、か」

「やっぱ難しいか。……いっそ、アメリカに頼れればいいんだが」

「――それだ」

「……念のため言っとくが、本当にコネはねえぜ。あるなら使ってるからな。そっちにあって、使ってくれるなら別だが」

「確かに、私の手の及ぶ範囲には無いな――アメリカの、

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