色彩

白雪花房

第1話

 雨が降っている。窓ガラスが曇っていた。

 美術室には三〇人以上の生徒が集まっている。やけに静かだ。皆、作業に集中している。時計の針は午後一時五〇分を指すところだった。


 雨といえば何色だろう。昔は水色や青を使っていた。今は灰色のイメージも強い。なにせ、悪天候は憂鬱だ。

 だけど、恵みの雨という言葉もある。実りにも繋がる雫は、大地を潤す。

 しっとりとした空気は、癒しでもある。そう考えると緑色もありかもしれない。

 以前、森と雨をテーマにした作品を見たことがある。爽やかさや涼しげな雰囲気の中に、ホラーのような悲しさも混じっていた。美しかった。


 色は単色でも様々なイメージを沸き起こさせる。表情、感情、雰囲気、空気、個性……。書き出すと切りがない。


 好きな色はなにかと聞かれると、困る。


 赤は華やかだ。女性的なようでヒーローのカラーでもある。その強烈な個性には惹かれてしまう。

 青はクールでスタイリッシュだ。きれいだし、かっこいい。夏には絶対に欲しいと感じる色だった。

 黄は明るく、元気だ。クラスに一人はいそうなムードメーカー的なポジション。希望を表す色でもある。

 緑は爽やかで若々しい。季節で例えると夏、それも新緑がまぶしい初夏だろうか。穏やかな雰囲気を放っているため、かつては一番に好きと言っていた色だった。


 強いていうなら虹色が一番。色鮮やかな配色がベスト。

 カラーバリエーションのある商品を見つけると、ついコンプリートしてしまう。家に集まった雑貨は数えられないほど。

 なにに使うのかと言われると、返答できない。けれども、見ているだけで楽しめるのは、事実だった。

 できるのなら宝石も集めたい。だが、高すぎる。見ているだけで満足できるため、それで妥協していた。


 原色には、おもちゃのような無機質さもただよう。べったりと塗りつけるだけでは、足りない。

 そこで慣用色名の登場だ。和の色は雅やかだし、風情が出る。使うだけでイメージが広がる。

 茜色は寂しさや、郷愁。若草色なら、野山の初々しさと瑞々しさ。縹色は露草の儚さ。菫色だったら、奥ゆかしい女性。


 どうせなら美しいものを描きたい。鮮やかできれいで、うっとりとするような、素晴らしい絵を。


 そんなとき、ふと雨が止む。

 顔を上げ、外を見た。

 鮮やかに晴れ上がった空には、虹がかかっている。七色の光彩。偶然できた代物なのに、なぜああも美しく、洗練されているのだろう。これぞ、神の奇跡だ。


 そういえばと思い出す。宝石も自然から生まれるものだった。

 結局のところ、どれだけ色を重ねても、本物には勝てない。

 それは嬉しい悔しさでもある。

 自然が一番美しいものであってほしい。なにしろ私はそれを目指して、筆をふるっているのだから。

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色彩 白雪花房 @snowhite

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