今まで失くしたもの
霜月秋旻
今まで失くしたもの
『あなたが今まで失くしたもの、すべて見つけてお届けします』
会社の昼休みにスマホでネット検索をしていたら、そう書かれた広告を見つけた。ためしにその広告を開いてみた。
『ご登録有難うございます。お客様の名前は井尻 須磨雄さまですね。生年月日は×月×日、ご住所は…』 なんと広告を開いた途端に、俺の個人情報が次々と表示されていた。まずいと思い、すぐその広告を閉じようとしたが、何処をタップしても広告が閉じない。更には自動で新たな画面が開いた。
『今から井尻さまの紛失したものを探します。見つかり次第メールにてご連絡差し上げ、発送手続きを開始します』
そう書かれた画面が出た直後、俺のスマホに立て続けにメールが届いた。
『1999年5月3日に紛失されたジュエルモンスターズのレアカードが入ったカードケースは、あなたの小学校時代の同級生、氷川清太さまのご自宅の洋服ダンスの一番下の引き出しに入っておりました』
『2006年1月10日に紛失された白い手袋は、あなたの通っていた高校の体育館の倉庫の中にありました』
『2008年10月18日に紛失されたご自宅の鍵は、あなたのご自宅の寝室のベッドの下に落ちていました』
『2009年6月22日に紛失された赤い傘は、あなたが当時宿泊されたホテル・ラブデラックスにありました』
メールを一通一通読むたびに、当時の記憶が蘇る。当時は捜し物がなかなか見つからなくて、思い当たる場所を必死に探した。しかしどの紛失物も、今更見つかったところで別に欲しくもなんともない。今まで捜しても見つからなくて諦めたものはすべて、それに代わる新しい物を手に入れて補ってきたからだ。
昼休みが終わって仕事に戻ってからも、メールは更に何通か届いた。しかし仕事中なので、帰ってからまとめて確認することにした。
夕方、仕事が終わって一人暮らしのアパートに戻ると、入り口の前におびただしい量の段ボール箱が積まれていた。何事かと思い、積まれたダンボールのうちのひとつを開けて見た。すると数年前に泊まったホテルで失くした、赤い傘が入っていた。となると、他のダンボールにも同様に、俺が今まで失くしてきたものが入っているということだろう。誰がどうやってこんなことをしたのかは知らないが、ありがた迷惑だ。どれも既にいらないものなのだから、どのみちどれも処分することになる。
俺は溜息をつきながら、ひとつひとつダンボールを開けて中身を確認した。手袋や鍵、当時流行ったカードダスが入ったケース。ほかにも、小学校の頃に誰かに隠された内履きや、ゴムボール野球をしていて失くしたゴムボール、昔使っていたガラケーに着けていて何処かに落としたストラップなど、懐かしいものが次々と出てきた。
「ん?なんだ?このニオイ…」
積まれていたうちの一番下のダンボールを開けた瞬間、異臭が漂った。鼻をつまみながらダンボールの中身を見てみた。
「うわっ!!」
俺はその思わず、そのダンボールを突き飛ばした。中身はその場にぶちまけられた。そのダンボールの中に入っていたもの。それは骨だった。バラバラになった、人の骨。俺は尻餅をついて、手を震わせながらポケットからスマホを取り出した。そして、まだ読んでいた無かったメールをひとつひとつ確認した。そして、その骨が誰のものであるかを理解した。俺には既に新しい恋人ができて、忘れかけていたというのに……。
『2013年7月24日に紛失された、嶋野 春香さまは、××県△△市○○町□□区の雑木林にありました』
俺の元恋人だった春香は四年前に行方不明になってから、未だに見つからずにいた。目の前の白骨は間違いなく春香のものだ。なぜなら俺が手渡した婚約指輪が、その白骨の薬指にひっかかっているのだから。
今まで失くしたもの 霜月秋旻 @shimotsuki-shusuke
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