第7話 音楽のシェア
水族館までは電車を使う。遊びに行くメンバー全員の中間地点の駅を選び、集合することになった。瑞樹は前日に予め選んでおいた服を着て、駅へと向かう。少々早いが人を待たせるのは苦手で、元々せっかちということもありこの時間になった。
今日の私服は真っ白なワンピースに、同じく白いレースのついたサンダルだ。ワンピースは背中にプリーツがあり、清楚ながら動きやすいところが特に気に入っている。
時間に余裕があるのでゆっくり歩きながら、駅を目指した。到着した先には、案の定誰もいない。瑞樹はミュージックプレーヤーで音楽を聴きながら待つことにした。アイドルのラブソングや、ミュージシャンのバラードなど今日の気分に合う曲は何だろうと、ランダムに聞いていた。ぼんやり待っていると、不意に肩をとん、と叩かれて我に返る。見上げるとそこにはしずくが立っていた。
「おはよ。」
しずくは黒いタンクトップに水色のパーカーを羽織り、デニムのホットパンツ。足元はスニーカーという露出はあるものの健康的な印象を与えるファッションだった。長い髪の毛は編み込みを施し、ポニーテールに結っている。
「おはよう。私服、何だか新鮮。」
「お互いね。斉藤さん、女の子らしくてかわいい。いつもスカートやワンピースが多いの?」
「う、うん。」
瑞樹はかわいいと言われたことの恥ずかしさと嬉しさに、ワンピースの裾を引っ張る。その仕草を見て、しずくはくすくすと笑った。
「皺になっちゃう。…そうそう、直して。せっかくかわいいんだから。」
「ありがとう。」
「私、一番乗りだと思ったんだけどなー。」
んー、と唇に人差し指を当て、しずくは小首を傾げる。口元がアプリコット色に染まっている。リップを塗っているのだろうか、とてもよく似合っていた。
「ねえ、何の音楽を聴いていたの?」
「え?あ、ああ。適当に、今流行ってるような曲だけど。…一緒に聴く?」
瑞樹はイヤホンの半分をしずくに差し出す。
「いいの?聴く聴く!」
しずくは喜んでイヤホンの半分を受け取って、耳に装着した。そして目で「音楽を流して」と瑞樹に促した。瑞樹も頷いて、自らもイヤホンをつけてミュージックプレーヤーを操作した。ランダム設定で丁度流れてきた曲は、有名なドラマの主題歌だった。
「あ、この曲知ってる。ドラマ好きだったなあ。」
しずくは小さく口ずさみ、プレーヤーと共に歌う。か細く、高い歌声は瑞樹の耳に心地よく響いた。今度、カラオケに誘ったら一緒に行ってくれるだろうか、など考えてしまう。
しばらく二人で顔を寄せ合って、音楽を聴いて他のメンバーを待っていた。集合時間10分前から、メンバーは揃いだし始めた。
「瑞樹ー!譲羽さん!二人とも、早いね。」
「あ、由紀。うん、せっかち二人がそろったー。」
「せっかち二人!瑞樹はそうだとして、譲羽さんはそんな感じしないのにね。」
由紀は笑って瑞樹の肩をばんばんと叩いて、笑った。「痛いってー」と同じく笑いながら抗議すると、「ごめんごめん」と軽く謝られた。
「ところでさ。」
ひとしきりじゃれ合って、由紀はしずくと瑞樹を見つめた。
「随分、二人距離が近いけど何してたの?なーんか、恋人同士並みの距離感だったよ。」
しずくは瑞樹を横目で見て、にこりと笑った。
「そう。私たち、恋人同士だもんねー?」
その何かを含んだ笑みに、瑞樹はどぎまぎしてしまう。だから敢えて、叫ぶように反論してしまった。
「音楽をシェアしてただけだよ!」
「ハニーったら、つれないなあ。」
しずくはしなを作って瑞樹の肩にもたれ掛かる。
「あはは。譲羽さんって、そんなキャラだったんだ?」
花が咲くように笑いあう。やがてかなえや、男子二名も合流して一行は電車に乗り、水族館の最寄り駅へ向かった。
電車の中では上川がしずくに頑張って話しかけていた。しずくも和やかに、言葉を返している。見ている分にはとても微笑ましい光景なのに、瑞樹は何だか友達を取られたかのようで面白くない。こっちを向かないかな、とじっとテレパシーをしずくに送ってみる。
「どうしたの、瑞樹?」
「へ?えーと、いや、あの何でもないよ。」
「そう?それにしても、結構お似合いじゃない?あの二人。」
「…。」
確かに上川は背も高いし、性格も穏やかでとても好印象だ。女子生徒からも評価は高い。
だがしかし、つまらないものは仕方がないのだ。胸の内がもやもやする。
様々な思いを乗せて、電車は進む。一行を連れた電車は水族館のある街の最寄り駅に到着した。
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