第5話 共同体意識

それからしずくとは気が合うのか、何かと語り、一緒の時間を共にした。

互いに顔を見合わせて唇に指を当て、しー、と静かに非常階段を昇る。かつん、かつん、と二人分の靴音が響いた。行き先は本当だったら立ち入り禁止の校舎の屋上だ。

ちょっとした悪事を一緒に行うと、結束が固まるから不思議だ。いたずら盛りの子供のようにしずくと瑞樹は秘密を共有した。

やがて最上階に達し、ぎぎ、と重い鉄の扉を開け放つ。刹那、目の前にいっぱいの蒼穹の青が広がった。ひつじ雲がぷかりぷかりと浮かんで、風に流されていく。温かい日差しを浴びて昼食のお弁当を食べ、二人はブレザーを下に寝転んだ。

「気持ちいーねー…。」

「うん。」

深呼吸すると、僅かにシトラス系の爽やか香りが瑞樹の鼻腔をくすぐった。それはしずくのシャンプーの香りのようだった。今日も朝練で泳いでいたのを見かけた。授業が始まる前に、髪の毛を洗ったのだろう。

今度、どこのメーカーか聞いてみよう。

しずくは色々なことを知っていた。強力な日焼け止めは本当に肌が焼かれないし、肌トラブルにもならなかった。先生たちの目を盗んで施すナチュラルメイクとか、さりげないのにすごくかわいい。…これは素質の問題もあるが。

焦らないこと。落ち着くこと。自信をもつこと。向き不向きではなく、前向きに。

それはまるで海のように広大で、底のある深さだった。海は底知れず怖いと言う人がいたが、泳ぎ切ればちゃんと底があることを初めて知った。そしてその底から見上げた海面は、蒼い光のカーテンに包まれ、見渡す限りのどこまでも透明な世界のようだった。

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