第6話 777円のレシート

「ねえ、瑞樹!今度の休み、遊びに行かない?水族館のチケットがあるんだー。」

友人のかなえが瑞樹に話しかけた。入学式から二週間経ち、クラスにも大分なじんできた。男女ともに話す相手もできて、友人たちの一面を知る今が一番楽しい時期なのではと思う。

「いいねー。メンバーは?」

聞くと男子が二人、女子が三人という構成だった。そのうちの女子二人、かなえと由紀が声を小さくして話を続ける。

「でさ、瑞樹にお願いがあるんだけど。」

「え、何?」

「うん、それがね。」

男子の一人の名前を挙げて、女子三人の内緒話が続く。

「上川くんが、譲羽さんと話がしてみたいんだって。瑞樹、仲いいでしょ。誘ってくれないかな。」

「いいけど…。普通に話しかければいいじゃん。」

瑞樹は小首を傾げる。かなえと由紀は、目を見合わせて首を振った。

「んー。悪口じゃないんだけど、譲羽さんって大人っぽくて話しかけづらいというか…。」

「うん、うちらもこれを機会に譲羽さんと仲良くなりたいんだ。」

「ふうん。そっか。いいよ、ちょっと待ってて。」

瑞樹は視線を巡らせて、しずくを探した。しずくは前の時間割の教員に教科書を片手に、丁度、質問をしているところだった。それを待っていると、教員が入れ替わりで教室に入ってきた。予鈴チャイムも鳴り、どうやらこの休み時間中には話しかけられそうにない。取りあえずあきらめて、この場は解散した。やがて本鈴が鳴り、号令がかかり授業が始まった。

瑞樹は授業を受けながら、しずくのことについて考えていた。

大人っぽいが過ぎると話しかけづらいのか…。でも案外、話してみると子供っぽいところあるんだけどな。自分の事は完全に棚に上げてるけど。


しずくが以前、瑞樹に「すっごい良いもの、ゲットした!」というからどうしたのかと問うと、帰ってきた答えと現物が777円ぴったりで精算されたレシートだった。

『くだらない!』

『何かのご利益ありそうじゃない?本のしおりにしようかな。あ、欲しかったらあげようか?』

『心の底からいらない。』

子供っぽいというか、子供だ。

瑞樹は思い出し笑いをかみ殺す。教科書で口元を隠しつつ、そっと斜め前の席のしずくを盗み見た。しずくは真面目に授業に取り組み、ノートに内容を板書しながら時折シャープペンの頭を唇に当てて、問題の答えを追っていた。真面目だ。

きっと、しずくの本性というか性格が知れたらもっと人気者になるんだろうなあと思う。思ったところで、教員に気が散っていることを注意されたので、瑞樹も真面目に問題を解くことにしたのだった。


「水族館?」

「うん。かなえたちと一緒に、どうかなあって。」

昼休み、昼食を摂りながら聞いてみる。教室は誘い合ってバスケに向かう者や、読書をしたり、購買に走る生徒たちがいたりと賑やかだ。

「今度の祝日なんだけど…予定、どう?」

瑞樹は母親手作りのお弁当の卵焼きを突っつきながら、答えを待った。しずくは、んー、と考える素振りを一瞬見せて、でも次の瞬間には大きく頷いた。

「いいね。行きたいな。祝日は、部活ないんだ。大会前は別だけど。」

「よかった。じゃあ、後々詳細決まったら連絡するね。」

「うん。」

今日一番の任務を果たし、瑞樹は気持ちよくお弁当を味わったのだった。



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