【学校怪談】屋上のヤガミさん

屋上のヤガミさん

　この話（はなし）は私（わたし）が小学生（しょうがっこう）の頃（ころ）の話（はなし）なので、10年以上昔（ねんいじょうむかし）の話になります。私が通（かよ）っていた小学校（しょうがっこう）はイジメもない、地域（ちいき）の中（なか）でも朗（ほが）らかな学校でした――

　ある日（ひ）、体育（たいいく）の授業後（じゅぎょうご）に教室（きょうしつ）へ戻（もど）ろうと友達（ともだち）と連（つ）れたって歩（ある）いていたときでした。

　私（わたし）は視界（しかい）におさまる景色（けしき）の中（なか）に違和感（いわかん）を覚（おぼ）えました。

　校舎（こうしゃ）の屋上（おくじょう）に人影（ひとかげ）を見（み）つけたのです。遠目（とおめ）でははっきりとはわかりませんでしたが、背格好（せかっこう）から上級生（じょうきゅうせい）という雰囲気（ふんいき）と女子生徒（じょしせいと）だということだけは分かりました。

　一緒（いっしょ）に居（い）た友達に屋上を指差（ゆびさ）しそのことを伝（つた）えると、少（すこ）し怪訝（けげん）な顔（かお）で私を見（み）つめてから、屋上を一瞥（いちべつ）すると何（なに）も見えないと言（い）って、そそくさと校舎の中へ入（はい）って行（い）ってしまいました。

　屋上（おくじょう）に見（み）えた生徒（せいと）が気（き）になった私（わたし）はそのことを先生（せんせい）に話（はな）しました。

　先生は「そんなことあるわけ無（な）い」、「屋上には鍵（かぎ）がかかっている」、「見えるわけがない」とけんもほろろな態度（たいど）でした。

　子供心（こどもごころ）に先生のその様子（ようす）はちょっと焦（あせ）ってるようにも思（おも）えました。

　屋上（おくじょう）の生徒（せいと）のことが気（き）になって仕方（しかた）がない私（わたし）は実際（じっさい）に見（み）に行（い）くしかないと考（かんが）えました。けれど屋上の入（い）り口（ぐち）は先生（せんせい）の言（い）う通（とお）り鍵（かぎ）が掛（か）かってる上（うえ）に、鎖（くさり）までついていました。排煙（はいえん）のための窓（まど）にも細（こま）かな鉄格子（てつごうし）がついていて、生徒が屋上に出（で）ることはできそうにありませんでした。

　その日（ひ）の放課後（ほうかご）、今度（こんど）は近所（きんじょ）に住（す）む幼馴染（おさななじみ）の上級生（じょうきゅうせい）にそのことを話（はな）しました。すると『屋上（おくじょう）のヤガミさん』という怖（こわ）い噂（うわさ）を教（おし）えてくれました。

　うちの学校（がっこう）では昔（むかし）、イジメを苦（く）に飛（と）び降（お）り自殺（じさつ）をした生徒（せいと）がおり、その事件以来（じけんいらい）、屋上（おくじょう）にその生徒の幽霊（ゆうれい）が目撃（もくげき）されるようになったというということでした。そして『屋上のヤガミさん』を目撃した生徒はイジメにあう呪（のろ）いをかけられてしまうのだそうです。

　最近（さいきん）は目撃情報（もくげきじょうほう）も聞（き）かなくなりイジメの噂（うわさ）も耳（みみ）にしないので、成仏（じょうぶつ）したのだと幼馴染（おさななじみ）は思（おも）っていたそうです。

　『屋上（おくじょう）のヤガミさん』の話（はなし）を聞（き）いて私（わたし）は合点（がてん）がいきました。友達（ともだち）が見（み）えないと言（い）ったのはその噂（うわさ）を知（し）っていたからなのです。そして先生（せんせい）もヤガミさんの話を認（みと）めてしまったら、いじめが起（お）きることになってしまいますから、必死（ひっし）に突（つ）っぱねたというわけです――言い換（か）えれば、屋上のヤガミさんが見えないと言うかぎり、イジメの無（な）い学校（がっこう）でいられるのです――

　噂（うわさ）を知（し）らずにヤガミさんを目撃（もくげき）したことを伝（つた）えてしまった私（わたし）は、しばらくして転校（てんこう）することになりました。

　私は不思議（ふしぎ）なものが見（み）えても、誰（だれ）かに話（はな）すことはもう絶対（ぜったい）にしません。