愛すべき彼らが、本当にいてくれたらいいのに

そこのあなた、ヴィジュアル系は好きですか?
私は大好きです。
何せ、GLAY派とラルク派でクラスが真っ二つに分かれ、X JAPANの解散とhideの死にむせび泣き、Dir en greyのMステ初出場で本気の議論をする……そんな学生時代を送ってきた、V系ど真ん中世代ですから。
ゴールデンボンバーの「†ザ・V系っぽい曲†」を聞くたび、「これ、アタシだ……」となりますから。

すみません、話がそれました。

この小説はメタル一筋ドラマー優哉が、ヴィジュアル系バンド、ベルノワールに「夕」として加入するところから始まります。
優哉は最初はドライに(若干引き気味に)、化粧やキャラ作り、演奏スタイルなどのヴィジュアル系の文化を見ているのですが、物語が進むにつれ、どんどんベルノワールの活動にのめり込んでいきます。
練習は独学で済ませ、ライブもレコーディングもなあなあという、サウンド面で圧倒的に「ぬるい」ベルノワールの面々を、サポートドラマーとして業界の荒波を渡り歩いてきた優哉がバシバシ尻を叩き、本気にさせていく……
その清々しいくらいの一直線は、読み手に冷笑や猜疑心を挟ませる隙を与えません。
優哉は徐々に夕になっていき、クライマックスのお披露目ライブで、ついに完全に生まれ変わる。
ベルノワールのドラマー、夕として。
メンバーが、ファンが、観客が彼を受け入れる時、読み手も気付くのです。
「私、またヴィジュアル系を好きになっている……」

読者の九割は、最初はベルノワールに自身の好きなバンドを重ねるはずです。
(私だったら、Lynch.あたりかな……)
でも、読み進めていくうちに、だんだん本当にベルノワールが存在しているように思えてくる。
彼らだけの音楽、彼らだけの佇まいが、本当にあると信じたくなる。
そして、Apple Musicを開き、悲しみに暮れる。
「ベルノワール、無いじゃん……」
そこにはもう他のバンドの投影はありません。
願うのはただ一つ、この世界で、私たちと共に在るベルノワール。

この小説は、作者・たきかわ由里さんのヴィジュアル系へのラブレターでしょう。
回り回って受け取ってしまった以上、放流するしかありません。
ありったけの愛が、ここには綴られています。
そう、それはHateではなくFate……

素晴らしい作品を、ありがとうございました。