音楽小説は難しい。
いかに流麗な文言を駆使しようと、それが比喩である限り、言葉は必ず音楽の後追いになる。
音楽の表現としてではなく、音楽そのものとして立ち現れるために、小説には何が必要か?
魔法。つまりは、語りの力である。
主人公――ゼロ年代日本のヒップホップシーンで確固たる地位を築いたラッパー、ジオメトリック1/4は、転生先の異世界でこう語る。
「魔法とは、つまるところ言葉の技術なのだ」と。
あるいは、こうも言う。
「世界は言葉に呼応する」と。
誰よりも我々書き手が知っていることである。
現実を言葉に変えるという、崖から崖への跳躍。というより、超越。
何らかの翻訳不可能な行為を、我々は繰り返す。繰り返さなければならない。理不尽で終わりなき行為が加速する。
加速の果てに、言葉が世界を先取りする瞬間が訪れる。
それを逃さず捉え、綴り、縫い合わせる。
その連綿が語りであり、魔法であり、つまりは小説だと私は思っている。
作中で示される真実が、作品そのもので体現されている、稀有な小説だと思う。
音楽小説ならこう書きたい。
こうあらねば、という作家の矜持を見せつけられた。
とにかく続きが読みたい。
故TOKONA-X。生ける伝説ANARCHY。北の本物ILL-BOSSTINO。
彼らの重みと凄みに一歩も引かない、ドープでグルーヴィーなナラティブを味わいたい奴はここに集え。