「60×30」といえば、2013年からインターネット上で連載を続けている超大作、いわばフィギュアスケート小説の金字塔的作品です。
その作者様が今回私の「氷上のシヴァ」とのコラボ小説を書いて下さったと知り、畏れ多くもワクワクが止まりませんでした。
どんな作品になっているのだろう?と……。
作中舞台である2018年で披露された哲也の「てのひらの青」と洵の「エリザベート」には、共通点があります。
どちらも、光を描くために自らが影を演じるということです。
わざわざ影を選ぶというのは、アンビバレントな行為です。
なぜなら、フィギュアスケートとは氷上で一人きりになる競技。逃げも隠れもできない。全ての視線を一身に集めるスケーターは、本来なら光源でしかありえません。
しかし、この二人は「より大事なもの」を表現するために、我が身を翻し、影になる。
洵はそれに対して無自覚なあまり、哲也のその姿勢を「傲慢だ」と評します。
それに対し、哲也は「その傲慢さが許されるのがフィギュアスケート」と答える。
究極の自己表現を引き受けた修羅の微笑みが浮かび上がります。
哲也が意外に饒舌になるのも面白い。「60×30」本編では、もう少し寡黙でキツく結んだ口元で言外に何かを語るような少年だったように思いますが、氷上の修羅道を歩むことが彼を大人にしたのでしょうか。
一方で、洵がライバル心をむき出しにしているのも面白いです。彼のポテンシャルの高さを象徴しているようで、私にはここまでは書けません。多分もう少し慇懃無礼なヒネた少年になってしまって、ストレートに感情を出す洵は見られなかったんじゃないかと思います。
こういうのも、クロスオーバー作品ならではの化学反応という感じで、とても興味深かったです。
随所にシヴァ本編を彷彿とさせる描写があるのも嬉しいです。
何度も読み込み、反芻し、形にして下さったことが分かります。
他作品のキャラクターを語り手にして書くのは勇気が要ることだと思います。
この作品には書きたいという思いが溢れています。この「書かずにはいられない」という衝動こそが小説家の原点だと私は思います。
「氷上のシヴァ」はずいぶん前に私の手元から離れた作品ですが、これを読んでいたら、シヴァを書いていた頃のまっさらな気持ちを思い出しました。
「60×30」のスピンオフとしてはあまりに贅沢すぎる内容で慄きます。
将来的な、まだ本編では触れられていない、平昌五輪に関する重大なネタバレがあります。
それをシヴァとのクロスオーバー作品でお披露目していただけたのは、作者としても読者としても、両方の立場からして畏れ多くも光栄です。
この気持ちを味わえるのは世界で私一人かと思うと、本当に黒崎さんから宝物をいただいたような気持ちです。
報いるためには、やはり私も書くことでしか返せないのだろうなと思います。
原点を思い出させていただき、身が引き締まる思いです。
このような素敵な作品を書いていただき、本当にありがとうございました。
次は必ず、私が書きます!