黒崎伊音さんによる「氷上のシヴァ」×「60×30」クロスオーバー小説第二段です。
本作ではシヴァのサブキャラクター、岩瀬基樹の引退試合である2014年世界選手権がフィーチャーされます。
60×30の堤昌親がこの試合の解説を務め、弟子である鮎川哲也がそれを見守っています。
2014年はシヴァ、60×30ともに本編開始以前であり、言うなれば決戦前夜。
シヴァでは後に指導者となる岩瀬の哲学の土台と、狂気の片鱗。
60×30では既に指導者の道を歩んでいる昌親の、競技を視る透徹した目。そして弟子への指導姿勢。
二つの氷上の物語の夜明けを垣間見ることができます。
さて、ここからはシヴァの作者である私が、勝手ながら補足を。
岩瀬は、私のお気に入りのキャラクターなのですが、なぜかというと、彼の世界への態度に非常に共感を覚えるからです。
岩瀬という人物は、シヴァの中で唯一、あの世界のフィギュアスケートを信じていないスケーターです。
彼は、氷上という足元、世界の土台そのものを疑っている。
こんな世界、何かがおかしいと思わないか。
神や悪魔の仕業としか思えない、常人の力の及ばざる運命の手綱を自分の手に取り戻したい。
厨二じみた哲学を、生きる軸としてド本気で据えている。
そんな「イタい」大人が、岩瀬なのです。
そして彼の「イタさ」は私の「イタさ」です。なぜなら、私もこの世界を信じていませんから。
(もちろん、物語世界のことではなく、この世界そのものの話ですよ!)
七つの大罪を氷上に顕現させた彼の狂気を、私は愛しています。
それにしても、黒崎さんの、七つのジャンプ要素でもって七つの大罪を表現するというアイディアは秀逸ですね。
実はシヴァ執筆当時、岩瀬の「セブン」のプログラムを私は具体的に考えていませんでした。構成はおろか、編曲もろくに……
敢えていうなら、デヴィッド・ボウイのテーマ曲は使ってるかなあ、くらいのぼんやりとしたイメージのみ。
私が残した空白を、黒崎さんという素敵な書き手が埋めてくれたと思うと、この出会いには感謝しかありません。
「氷上のシヴァ」と「60×30」は全く別の物語ですが、両者を読むことでより世界観が深まる、不思議な関係性が結ばれていると感じます。
まるで示し合わせたかのように、両作品が敢えて語らずにいたフィールドを補完し合っています。
そう、まるで「湾岸ミッドナイト」と「頭文字D」のように……なんて言ったら、手前味噌すぎるかもしれませんが。
それにしても、岩瀬基樹と堤昌親という、両作品のザ・知的な色男・先生キャラ・いい意味でナルシストの直接対決、見てみたいですね。
というわけで黒崎さん、いつかお願いします!!
……え? お前が書け?
はい、前向きに検討します……。