現代ミステリー考案店

風祭恵一

現代ミステリー考案店

 ここは、様々な現代ミステリー作家のために殺人事件などのトリックを代わりに考えてくれるお店だよ。今回はその中の四人の客を紹介してあげる。


CASE1「毒殺」


 作家Pは現在、殺人事件で使う毒物について悩みこのお店に来ていた。相談を受けたどこか年を取っている外舷を感じる店長はその小説の設定について質問をしていく。

「毒物ですか……確かに現代の毒殺となると青酸カリなどは無理がありますね。答えられる範囲でその毒殺される方と犯人の大体の年齢や職業などを教えてもらえますか?」

「被害者は投資家のおじいさんという設定で、犯人は料理評論家という感じになっています。何とかなるでしょうか?」

「ご安心ください。必ずトリックを考えだします。準備が出来次第ご連絡します」


 その夜、現代ミステリー考案店の店長はトリックを考えるために様々な本を読んでいた。最初に医療関係の本、次に植物関係の本、最後に食材の本を読んでいた。その中で店長は現代に合った毒殺のアイデアをすでに見つけていた。数日後、店長は作家Pを店に呼び出して話をする。

「先日ご依頼いただきました毒物のトリックですが、無事犯人に合った毒物がありました」

「本当ですか! で、その毒物は何ですか?」

「それは菜種油です。それも海外の」

 店長がそう言うと、

「え? 菜種油で人が殺せるのですか?」

 と作家Pはうたぐりの目を向けながら言った。店長は説明を続ける。

「はい。といっても海外製のではないと毒殺はほぼ不可能ですがね。海外の菜種油には心臓障害を誘引する恐れのあるエルカ酸という物質が含まれています。それを使った料理、例えば……フライなど油が多く含まれている料理を心臓が弱い人に食べさせると、ほぼ確実に殺せます。犯人は料理評論家なのでそういうのをトリックにしたら面白いと思いますよ。一応おじいさんに心臓が弱いようなことを表す描写が必要になりますがね」

 説明に納得したらしい作家Pは満足した表情で、

「なるほど……これで締め切りに間に合いそうです。」


そう言って、作家Pは代金を払って店を出て行った。


CASE2「証拠隠滅」


 作家Lは謎解きの時に指紋が出てこなくて主人公が困ってしまうという展開を書こうとしていた。そこで、指紋を無くす方法について考えたが全く思いつかずこの店に来ていた。

「指紋の跡を無くす方法ですか……指紋は確かに消すのが難しいですからね。ちなみに指紋を拭きとるなどではだめですよね?」

「はい。できれば犯人の職業である小学校の先生しかできないような指紋の消し方だといいのですが……」

「あと指紋の消し方についてですが、指の指紋自体を無くすなど指紋の消し方はどの様な方法でも大丈夫でしょうか?」

「あまりに非現実的じゃない限り、トリックはどの様な形でも大丈夫です」

「分かりました。では小学校の先生に合った指紋の消し方が見つかり次第連絡します」


 次の日、店長は図書館に小学校で扱う薬品について調べるために来ていた。小学校の理科の実験で使う薬品は教科書に載ってるので約七十種類。その中で皮膚などを溶かすのに使えそうなものは約二十種類ほど存在していて、その中から比較的安全に指紋を消すのに使えそうな薬品を探し、それについて詳しく調べる。数日後、作家Lに店に来てもらい話をする。

「指紋を消す方法ですが、小学校に置いてあるもので指紋を消せそうなものが見つかりました」

「そんなものがあるのですか……で、それは?」

「固体の水酸化ナトリウムですね」

「水酸化ナトリウム?そんなものでどうやったら指紋を消せるのですか?」

「簡単です。固体の水酸化ナトリウムは溶かすと強塩基になるほどアルカリ性が強いので、それを指でこすり合わせるだけで指紋自体がなくなってしまいます。そうすると謎解きでも犯人探しがしやすいと思いますよ。あとは指で固体の水酸化ナトリウムをこすり合わせると、やけどをすることが多いのでそれも証拠の一つとして使えます。固体の水酸化ナトリウムは、小学校の理科室に置いてあるはずなので入手もさほど難しくありません」

「入手方法まで考えて頂きありがとうございます! これで続きが書けます!」


そう言って作家Lは代金を払い店から去っていった。


CASE3「犯人と被害者の関係性を無くす」


 異業種作家Oは犯人と被害者の関係性を無くすことが出来ないかと悩み店に来ていた。

「関係性ですか……確かに被害者と犯人の関係性がないと犯行が簡単ですからね。ちなみに被害者は何人になる予定ですか?」

「二人の予定です」

それを聞いた店長はあることを思いつく。

「でしたらこういうのはどうでしょうか? 交換殺人です」

「交換殺人? 何ですかそれは?」

「例えば、まずAさんはZさんに強い殺意を抱いていたとします。また別のところでBさんはYさんにこちらも同じく強い殺意を抱いていたとして、そんなAさんとBさんが何らかの形で出会ったとします。そしてその後、示し合わせてAさんがYさんを殺しBさんがZさんを殺したとします。その場合AさんとBさんはアリバイなどを作っておけば疑われにくいでしょう。まあ、ミステリー作品でよくある技法ですこれを使ってみたらどうでしょう?」

「そんな技法があるんですか……知りませんでした。教えて頂きありがとうございます」


 異業種作家Oはお礼を言って代金を払い店から出て行った。


CASE4「実際の事件をもとにする」


作家Tは小説にリアルさを求めようと実際の事件を調べたが、あまりいいのが見つからずにここに来ていた。

「つまり、実際に起こった事件でミステリーに使えそうな事件を教えればいいわけですね」

「はい。何か小説に使えそうな事件はないでしょうか?」

「そうですねぇ……では少しお待ちください」

 そう言って店長はメモを取り出しぺらぺらとページをめくり内容を確認する。数分後、メモの確認を終えた店長は話し始める。

「では実際に起こった偶発的な事件をお話ししましょう。二千六年に沖縄県で暮らす一組の夫婦がいました。ニ人は家庭菜園で採れた野菜を食べるのが楽しみで、凝り性だった夫は、どんどん野菜作りにハマっていき、ある栽培方法を試してみたくなったそうです。それは「接ぎ木」というニつ以上の植物をつないで育てる栽培方法というものでした。そこで夫は毒が接ぎ木で移ることがあることを知らずに、チョウセンアサガオという毒性の強いナス科の植物を使ってナスの接ぎ木をしてしまい結果、毒ナスが出来てしまいました。そして、その毒ナスを使ったミートソーススパゲティを夫婦が食べてしまい二人とも病院に搬送されてしまいました。幸いなことに二人とも命に別状はなかったようですが夫はこれに懲りて接ぎ木をしなくなったそうです」

 作家Tはメモを取りながら喜んだ顔で、

「そんな事件があったんだ……知らなかったな。これで何とか書くことが出来そうだ。本当にありがとうございます!」


そう言って作家Tは代金を払って店から去っていった。


 こんなかんじで、現代ミステリー考案店では実際に起こった事件などを紹介や、トリックなどを考えてもらえるんだよ。あなたもミステリーでアイデアが浮かばなかったら行ってみたら? まあ、結局は他人に頼らず自分で考えるのが一番なんだけどね。それじゃあ私は帰るね。え? 店長が何ですぐに現代に合った毒物を見つけることが出来たかとか実際に起こった事件に詳しいのか知りたいの? しょーがないなー。それじゃあ教えてあげる。でも、ちょっと頭を使ってもらうよ。だってこの物語は一応ミステリーだもん。これから出す暗号が解けたら店長が何者かがわかるよ。ヒントが欲しい? まだ暗号も出していないのに? じゃあ一つだけ。パソコン使っている人なら分かるかもね。あ、別に大した答えじゃないから必死に解く必要はないよ。それじゃあ、またどこかで! 



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