第12話富山くんと勉強会①

「はぁ······ちょっと遅くなっちゃったね」


隣でスタスタと階段を上る富山くんを直視できず、何となく視線を外しながら言う。


「そうだね」


······クールです、富山くん。最高です。

休むことなく上っているのに、息切れをしていない。体力、というものの差だろうか?


それは良いとして、「真江も一緒に勉強したーい! 春樹教えるの上手だしぃー!」と勉強会にまで無理やり付いてこようとする真江ちゃんに、キッパリと「河本とふたりでっていう約束だから」と言って断っていた姿はかっこよかったし、嬉しかった。

ふたりでって言う約束はしてなかったはずなんだけど、そう言ってまでふたりで勉強したいのか? と思いにやけてしまう。


「河本、どこにする?」


「へ?」


思い出してニヤニヤしながら歩いていたら、図書室に着いていたようだ。


「えーっと······あそこ! どう······かな?」


図書館には4人が座れる机、2人が向かい合って座れる机、大人数で座れる机がある。

私が指さしたのは大人数で座れる机だ。

せっかくだしデートっぽく二人席に座ってみたいけれど、それだとあまりにもぐいぐいしている感じがしすぎると思い、やめた。


「良いと思う」


二人席に座らない? とか、言ってくれるかなと期待したけれど、さすがに言ってはくれなかった。うん、理想が高いのは分かってるんだけどね。ちょっとがっかり。


二人で向かい合ってノート類を開き、準備万端になった。


「えっと······じゃあ、勉強しようか?」


「そうだね」


「何やるの?」


「英語の問題集と、ある程度やったら数学の問題集もやりたいかも」


「いいね! 私は数学の問題集と、あとは社会の復習かなぁ」


「とりあえず、頑張ろう」


「わかんないとことかあったら聞いていい?」


「もちろん。僕も聞くかも」


「「··················」」


少しいい感じに会話を繋げたと思ったけれど、やっぱり目的が勉強ということもあり、無言になってしまった。


······話したいぃぃぃぃぃ!


ちらっと富山くんを見ると、黙々と問題集を解いている。スラスラと解けているみたいだ。さすがだ。

私も見習って勉強をすることにした。







「はぁ······今どんな感じ?」


「数学解いてる。証明とか難しいね······」


つい、集中してしまった。

時計を見ると、もう1時間半。


「結構時間経ったね······すごく効率良いし、やっぱり富山くん頭良いんだね」


「いやいや。そんな事ないよ。河本だって凄い集中してたし」


「はぁ、一旦外に出ない······? 疲れてきちゃったかも」


······せっかくだからもっと話したいし。


「そうだね」



外に出ると、演劇部が発声練習をしているのが聞こえる。一気に賑やかになった。


「疲れたぁ」


「ふふっ」


私が心から言うと、富山くんはくすくすと笑った。


「なんで笑うのー?!」


「ごめん、なんか面白くて」


「それって悪口? ひどいー!」


「ごめんって」


「むー」


こんな、ふざけたやり取りが出来るなんて。

怒った顔が崩れそう。にやけちゃう。富山くんかっこいい。


幸せに満ち溢れた時間。

この時間は夢じゃないよね?


その時。


「おぅ! 春樹!」


「あ、大和!」


······橋本大和、くん。

富山くんの親友だ。


「河本さんも一緒か? なんだ、春樹って河本さんと仲良かったんだ」


仲良い? 私と富山が······?

富山くんはどんな反応をするのか気になって、そっと隣を見る。

富山くんと目が合って······


「うん」


はっきり、そう言った。

わぁぁ······るんだ。


「そっか、春樹も仲良い女子とかいたんだな。河本さんくらいだよな、春樹が仲良いのって」


「でも、真江ちゃんとかも······私だけって訳じゃあ······」


さすがに真江ちゃんの存在を無視はできない。思わず、口を出す。


「いやいや。誰だか知んないけど、春樹がこんな一緒に勉強するとか相当だよ」


自分で言って、うんうんと頷いている。

うーん······そうなのかな?


「大和、部活じゃないのか? そろそろ遅れるぞ」


富山くんが慌てたように言う。

ちょっと珍しい。


「あ、やべっ。じゃあ最後にもうひとつ。河本さん、春樹のこと好きなの? バレバレ」


へ? え?

呑気に富山くんを眺めていたのに······え?!

私が富山くんを好きなのバレてる?!

何か言わなきゃ······


「え、あぅ、えっと······?」


何言えばいいの?!

否定すればいいのかな?! 富山くんに失礼じゃない? それに事実私は富山くんの事が好きで······


慌てていると、更に追い討ちがかかる。


「慌ててるな。面白っ、河本さん。······じゃ、そろそろ行くわ」


······この気まずい中で放置?!

あなたは鬼か?!


富山くんも同じ思いだったようで、


「「ちょっ、待てよ(待って)!」」


声が重なった。

必死の引き留めにも応じず、ひらひらと手を振り立ち去っていく橋本くん。


「「············」」


はい······気まずいです。

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どうしてもキミの彼女になりたい 青野ハル @honohono

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