第11話 勉強会の前

「礼」


ペコッと頭を下げて、みんなはぞろぞろと各々のやることをする。

仲がいい人と一緒に帰ろうと駆け寄ったり、部活があるからとお弁当を持って掃除の終わるのを待ったり、掃除当番の人は肩を落として掃除を開始したり···などなど。


その中、私は富山くんを見つめていた。

···あ、ここだけ聞くとスゴい変態みたいだけど違うから。

なんて言い訳をしてみる。

でも実際、隣の席の人をガン見している私って、結構ヤバい人じゃないか?

···いやいや、これは例外! 多分。


バチッ。


あ。富山くんと目が合った。

それまで、机の中の教科書達をバッグに入れていた富山くんは、直ぐに私の方を見たからだ。

···ってことは、ここで「お弁当一緒に食べる?」とか言われちゃったりするのかな?!


期待が高まっていく中、富山くんがにこっとしながら口を開き――。


「···あの、お弁当一緒に食べる?」


来たぁぁぁ! やったー!!

頭の中では踊っているが、(多分)嬉しそうに微笑むだけにとどめた。私、頑張った。


「良いの? じゃあ喜ん」「春樹ー!」


···真江ちゃん?!


突然の真江ちゃん乱入に、驚きが隠せない私と富山くん。


「何?!」


少し声が上ずっている。珍しい···

真江ちゃんは、私に目もくれず富山くんの元へ走りよっていく。


「一緒にお弁当たーべよっ」


語尾にハートがついていそうなくらいの甘え声。

私は少し引いたけど、富山くんは平然としている。


「あのさ、先に河本誘ってるからごめん」


···富山くん、グッジョブ!!

でも、真江ちゃんは諦めない。


「えー? 真江のこと、嫌いなんだぁ···? 真江悲しいーっ」


あ、あざとい···!

真江ちゃんの渾身の一撃に、富山くんは困った顔。


「いや、そんなことはないけど···」


「じゃあ一緒に食べてもいいよね? 二人でって約束してた訳じゃないでしょ?」


「あ、えっと、···そうだね」


···あぁぁぁ! 富山くんー!

ちらちらと視線を向けて、私に謝ってくるのが分かる。内心はすごくショックだけど、しょうがないので「全然良いよ!」と言うアイコンタクトを送った。


「ほんとに?! やったー! 嬉しい! ねぇ、河本さ···奈緒ちゃん! 真江も一緒に食べても良い? 春樹は良いって言ってくれたんだけどぉ···」


「あ、うん! 富山くんが良いなら私は全然良いよ! ···さ、食べない?」


真江ちゃんの「良いって言え」オーラが凄かったのと、あと、別に富山くんと食べられるなら良いかなって思って軽くオーケーしてしまった。ほんと、いい子ちゃんな私。

···いや、別に「私は富山くんに誘われてんの! しかもいい空気だったのに何割り込んでんの!!」とか思ってないし?  別に良いよ、三人で食べたって。良いけどね? ちょっとなんか···うん。

複雑な心境だけど、ここで遅くなると図書館での勉強会が短くなるのでさっさと机を移動させる。


「ほんとに? やったぁ! 奈緒ちゃんありがとう〜! あ、真江ちょっと手を洗ってくるね!」


「あ、うん。気をつけて···」


真江ちゃんがいそいそとお手洗いに行った後、私と富山くんが残される。


「あの、ごめん。河本、ほんとに良かったの? 無理してない?」


「あ、うん! 真江ちゃん良い子そうだし、仲良くしたいと思ってたし!」


「そっか。なら良かった。···でも、あの、図書館で勉強するっていうのは二人だけにするから。ほんとごめん」


ふ、二人だけ? 富山くんからそんなことを言ってくれるなんて!

そう思うけど、不意に好奇心が高まってしまった。


「いや、私は別に真江ちゃんがいても良いよ?」


···これでどう返事するかな?

すると、


「いや。あの、あいつ勉強苦手だし、あと図書館でとか騒ぎそうだから」


···わお! やった! これは二人が良いっていうメッセージだよね? そう受けとっていいよね?

もっと聞きたいけれど、私は富山くんを困らせる趣味は無いので、一旦納得しておく。


「そっか。じゃあ二人だけってことで! 楽しみ!」


「···僕も」


少し嬉しそうに、少し恥ずかしそうに私を見ながらぼそっと呟かれた一言。

···きゃぁぁぁ! まじかっこいい···


「お待たせ! さ、春樹、食べようっ!」


富山くんに見惚れていた私は、真江ちゃんがそう言いながら戻ってきた時、ちゃんと友好的に微笑めていただろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る