第48話
先輩のアイテムボックスに、持っていくものを全てしまった。
最後にこのドレスを着てと言われて、着替えの途中。
「先輩、背中のファスナー上げて」
「わかった、これをあげるんだな」
「んん?」
コルセットを付けるのが面倒のと、恥ずかしくてやめたからなのか、半年経ち太ったからかわからないけど、キツイ。
先輩も
「ルー、最後までファスナーが上がらないぞ?」
「やっぱりか……先輩、半年で太ったみたいなの」
こんな告白は恥ずかしい。ご飯が美味しくてたくさん食べたもの。お菓子だって読書中に寝転んで食べていたわ。
「これで太ったのか? 何処が?」
「どこがって……前よりお腹が? 後ね。コルセットを付けてないのもある……先輩、付けてくれる?」
「コルセット? コルセットってなんだ?」
え、知らない? そうか男性だもの知らないのかと、先輩にコルセットの説明したのだけど、付ける仕草の所でもういいと止められた。
「付けなくていい」
「じゃ髪型はどうする?」
上げたままでと言って、胸ポケットから銀のヘアピンを出して付けてくれた。
「これって」
私にはそのヘアピンに見覚えがある。いまから五年前くらいに道化師さんに渡したヘアピンだ。
どうして? それを先輩が持っているのだなんて。答えは一つしない。
「あの時の道化師さんは先輩だったの?」
「そうだ……俺だ」
先輩は頷き、私の手を取る。
「ドレスの汚れなど気にせず地面に座って、俺の魔法を口を半開きで、キラキラな瞳をして見ていたよな」
口が半開き‼︎
「うそ、恥ずかしい……だって、魔法を近くで見たのも初めてだったし、先輩の魔法は綺麗だったの。魔力が無く諦めようとしていた。その魔法がもっと、もっと大好きになった」
「ルーを見ていてわかったよ」
「先輩も同じだったわ」
楽しそうに魔法を披露していた。そんな先輩に憧れた、羨ましくて嫉妬もしたんだよ。
学園で会えるとも思っていた。でも、渡したヘアピンを持って来てはくれなかった。
「ルーとダンスしたい」
「あっ」
引き寄せられてホールドを組み、緩やかにダンスが始まる。
「どうして? 声を掛けなかったって思ってるだろ。できなかった。あいつの横で嬉しそうに笑うルーに……」
「……先輩」
「所詮俺は他所者だ。いくら一目惚れをしても、いくら好きでいても声など掛けれなかった」
一目惚れ? 好き? 先輩はあの時から私を好き!
「じゃ、なぜ私が探していた時にすぐに会ってくれなかったの?」
「会えるかよ、恥ずかしかったんだ!」
ダンスの途中で引き寄せられる。
「それに俺はルーが幸せであればそれでいい。この想いを言わずに国へと帰ると思っていた。だけど今は俺の腕の中にいる……すごく、綺麗だ」
「ありがとう、先輩」
♢
「くっくく、はははっ、まさかな」
「もう、先輩笑わないで! ほんとしょうがないの……太ったんだもの」
さっきからというか、もうずーっと笑ってる。
「シエル、小娘が可哀想だぞ。そんなに笑うな」
「ウルラは見ていないからな、くっくく、ルーの慌てた顔が可愛かった」
抱きしめられている途中でなんと、耐えきれなくなったファスナーが壊れて、ストンとドレスが落ちた。
買い取りの時も、ファスナーが壊れているからと、安くなっちゃうし。
「可愛いとか、先輩はそんなこと思ってもいないくせに!」
「思ってたよ、ファスナーが壊れて慌てて、顔を真っ赤にして。丸見えな下着を隠す姿、全部可愛い!」
「ちょっ、もう言わないで!」
福ちゃんもいるのに、ぽこぽこ肩を叩いたけど。
「はははっ、可愛い」
ずーっと楽しそうに笑っている。
こんなに楽しそうに笑う先輩を見るのは初めてかもしれない。
けど、笑いすぎよ。
♢
王都に行ったのでついで、パン屋で分厚いカツサンドをお昼を買ってきた。
今から私達の為に頑張る、福ちゃんと黒ちゃんの好物も買った。
みんなでそろってお昼を食べて、夕方日が沈む前に目立たない様に、ストレーガ国に向けて旅立つ。
魔法屋の看板をしまい、鍵をかけて、準備が終わったラエルさんが言う。
「これで、終わったよ」
「じゃ、行くかルー」
「はい、先輩」
「俺達の国へ帰るぞ、シエル、ラエル、そして、ルーチェちゃん!」
子犬の姿のベルーガ王子の合図で、私と先輩、子犬ちゃんを乗せた福ちゃんは飛び上がる。
次にラエルさんを乗せて、黒ちゃんも駆け上がった。
段々と生まれたシャンデ国が、モール港町が小さく遠くなっていく。
楽しいことも、悲しいことも、たくさんあった。
これからは先輩が側にいてくれる。
先輩の新しい日々が始まる。
♢
日が落ちて空に星が輝く、先輩とラエルさんが周りにライトの光を出した。
その、ライトの光を見ながら先輩に言う。
「ねえ、先輩。ストレーガ国の問題が終わったら冒険をしたり、魔法を教えてね」
「冒険かいいな。魔法はゆっくりだな。それでルーは何を一番に覚えたいんだ? 攻撃魔法、回復魔法、補助魔法か? 生活魔法もあるぞ」
生活魔法はいいな、でも。
「私が一番に覚えた魔法は【ライト】の魔法だよ」
先輩と子犬ちゃん、隣を並行して空を掛けるラエルさんまで驚く、それでいいのかと。
私は頷き答える「私の一番、好きな魔法だもの」と。
先輩は笑って任せろと言ってくれた。
私達のストレーガ国までの帰路はいま始まったばかりだ。
婚約破棄をしたのだから、王子よ、わたしを探さないで‼︎ にのまえ @pochi777
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