僕とクリスマスと苺のケーキ
パン屋の店先で、つい考えごとをしていたユウはハッとしてウインドーに目をやった。
色々な美味しそうなパンがあって、果物をたっぷり使ったホールケーキもあって、その隅の方に苺のショートケーキが並んでいた。
みんなの目は華やかなホールケーキの方にいくみたいで、まだまだショートケーキは売れ残っている。
そうだ、このショートケーキを買って帰ろう。
クリスマスだけどユウには一緒に過ごす恋人はいない。
恋人が欲しくないというわけではないし、良いなと思った子もいなかったわけじゃないけど積極的にはなれなかった。
そこまで人を好きになったことが、まだ無いともいえるのかもしれない。
ただ、今は仕事でも、ちゃんと一人前になって、それから自分の夢の為にも頑張りたい。
誰かを本気で好きになれるとしたら、それからの様な気がする。
母は自分のことを気にして踏み出せないようなことはして欲しくないと言うけれど、そうじゃないんだ。
確かに母の事は大切にしたいけど、それは義務とかそういうのじゃなくて、ユウがそうしたいと思うからだ。
それをユウが犠牲になってるなんて思っては欲しくない。
そして母にもユウの犠牲になんて、なって欲しくない。
誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなんて嫌だから。
母にも母の幸せを、とユウは思う。
ウインドーの中の苺のショートケーキを指さして
「このショートケーキふたつ、いや……みっつください」
ユウは言った。
小さなケーキの入れ物に今日はケーキがみっつ。
ユウと母と……それからこれは父の分だ。
バカヤロウの父。
不器用な生き方しか出来なかった父。
酒なんて飲んでやるもんか、僕は酒も煙草もやらないんだよ。お
だけど
母さんに免じて、今日は一緒にショートケーキ食べよう、父さん。
親子三人のクリスマス、たまにはいいだろう?
あとはノンアルコールのシャンパンでも買って帰るかな。
アルコール抜きか?って父さんなら文句言いそうだけど我慢しなよ、父さん。
§
街には賑やかにジングルベルが流れていて、金銀のクリスマスの飾り付けが華やかにピカピカと光っている。
恋人達や親子連れは腕を組み、手を繋いで寄り添いながら行き交ってすれ違う。
その人混みの中、我が家へと急ぐユウの足取りは軽く、手に持ったケーキの小さな箱の中で、みっつの苺のショートケーキが、お互いに少し寄り添いながら、楽しそうに揺れていた。
いつの間にか雪が降ってきた。
今夜は、少し積もるかもしれない。
(了)
僕とクリスマスと苺のケーキ つきの @K-Tukino
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