僕が苺のショートケーキを好きな訳

 ユウには今でも覚えている情景がある。

 あれは父が亡くなってから1,2年後の事だったと思う。


 その頃、ユウは小学校高学年だった。

 父は少しだけど借金を残していて、その返済もあってユウと母の生活は楽ではなかった。

 その年のクリスマスイブ、母は仕事で遅くなって帰ってきた頃にはユウは眠ってしまっていた。


 まだ父が生きていた頃にはクリスマスツリーを少し前から飾ったり、プレゼントを貰ったりもしていて、それはワクワクする楽しみなイベントだった。


 だけど親子二人の生活の中ではクリスマスは何だか遠い国の話みたいで、ユウも学校で友達が、はしゃいで話をしているのを、ただぼんやり見ているだけになっていた。


 だけど、クリスマスの朝、ツリーは飾られていて、母が朝食の準備をしながら

「ユウ、ツリー出すの遅くなっちゃってごめんね」とすまなそうに言った。

 そして、そのクリスマスの夜、母は少しだけ早く帰ってきた。


 手には小さなケーキの箱を持っていた。

 中には美味しそうな生クリームの苺のショートケーキがひとつ。


「わぁ!」

 ユウは思わず歓声をあげた。

 ユウは苺が大好きで、ついでに言うと生クリームのケーキも大好きだったから。


 父が生きていた頃は小さいながらもホールの苺の生クリームケーキを買ってきてくれたりしたものだった。

 そして、家族3人、ささやかながらクリスマスパーティをした。

 この時ばかりは父の機嫌が悪くなることも無く、みんな笑顔で。


 だけど、父が亡くなってからは、とにかく余裕が無かった。

 ショートケーキはひとつだけ。

 ユウは母に聞いた。

「なんで、ひとつだけなの?」

 母はちょっと困った顔をしたけど、笑って言った。

「ごめんねぇ、お母さん、職場でいただいちゃったのよ。だからね、これはユウの分」

「ホントに?」

「うんうん、本当。だからユウおあがり。食べないならお母さん、食べちゃうぞー!」


 ニコニコしている母の顔とクリスマスツリーを見ながら食べたあの苺のショートケーキは、どんなケーキよりも甘くて優しい味がした。



 今になって思うけど、きっと母は、ふたつ分のショートケーキが買えなくて、もう食べたと嘘をついたのだろう。


「母さんはいつも……」とユウは思う。

「自分を後回しにしてばかりなんだから」


 だからこそ、少しでも楽をさせてやりたいのに。

 僕は未だに母さんに何もしてやれてない。

 今日も仕事でミスをして怒られてしまった。

 もう新人でもないのに。

 不甲斐ない自分が嫌になる。


 ユウは落ち込みそうになる自分を振り払うように頭を振った。

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