第20話 燐姫

 「燐姫」

 貰った名前に、漢字をあてた。火編のリンはこれしかなった。なんと屍から出る火だそうだ。死体から出てくる火、すなわち、魂ってことだ。魂の姫、いいじゃん。ライヴで説明するのはちょっと時間がかかって微妙だけど、ホームページに載せる分には問題ない。

 路上ライヴを重ねた私達は、今度、ライヴハウスデビューをする。

 その日のためにC Dも作った。セットリストの十曲が丸ごと入っている。三回目の路上ライヴのときに、写真を撮りたいと許可を申し入れて来た女性に、もちろんお願いしますと撮って貰った写真の中から一枚を選んで、ジャケットに使うことにした。その写真は私達の始まりの場所を鮮やかに、演奏の熱を光の粒のように、私達の顔を命と意志のあるように写していて、私達の記念碑としてこれ以上のないものだった。

「これまでの私達は既に世界に記録されたから、次に進まなくちゃね」

 桃子がそう言ったときには新曲が四曲完成していて、「ロマンチックを現実が既に超えてる」とゲンが応じたのに四人で笑った。

 ライヴハウスの打ち合わせから帰って来た桃子が持って来た対バンの一覧には、「水の宮」と「ueno trio」が名を連ねていた。ロックとジャズでいいのかな、桃子に訊くと、「rainbow」の方針で、当人同士がよければ組み合わせは自由だとのこと。でも、そんなことよりも。

 ついに洪さんと同じ舞台に立つ。

 あの後も水の宮のライヴは二回観ている。彼女達も進化している。

 でも、もう負けてないと思う。

 凛は目の前の三人をひとりずつ見て、最後に自分の胸をギュッと押さえる。

 思ったよりもずっと早くその日が来る。だけど、その跳躍を許す程の濃密な努力を送って来た。

 今なら対等なライヴが出来る。

 この四人なら。


 ステージで準備をしながら眺めるフロアは、半分くらいの空間が埋まっている。

 探せば祐里もおじさんも、路上ライヴで常連になってくれた人達も居る。

 眩しい照明。

 振り返ればゲン、ポチ、桃子の三人。準備を終えて、いつでもどうぞの顔で送ってくれる。

 私達はバンドになった。私は歌姫になり、燐姫になった。

 ガヤガヤとした空間。

「こんばんは、『ファイヤーバタフライ』です。まず最初の曲は『Angel hunt』です」

 クラッシュの音。

 届くかな。

 届かせる。

 燐姫はマイクを握り、息を吸う。



(了)

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燐姫 真花 @kawapsyc

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