【一章】第二十一話

【宿屋】

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ミーコ達が居なくなり、急に静かになるリキッドの部屋の中


 先程まで、うなされていたリキッドも周りが静かになったせいか、今は穏やかな寝顔になっていた


 その様子に安心するモモレンだったが、…突然リキッドの顔色が悪くなっていく


「……え?なんで!」


 治療師は何でも無いと言っていたのである程度安心していたモモレンは不足の事態に戸惑いながらリキッドの熱を図ろうとおデコに手を当てると凄く冷たくなっていく



 掌から自分の熱が吸収されていくような感覚に血の気が引くモモレンは更に混乱させていく





【リキッドの記憶】

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 リキッドの記憶の中を漂っていたキドは其処から抜け出せなくなっていた



 映画のフィルムのように目の前で流れていき止まらない、まるで走馬灯でも見ているような光景は時を逆行していくようにも見える


 普段であればライブラリのファイルでも見るように操作して見る事ができていた筈なのに、何故かそれが勝手に巻き戻っていく


「何でだ?……くそ…どうなってる」


 やがて次々と流れるフィルムが一つのシーンで止まりそれがクローズアップされていく


 それはリキッドの記憶ともナルミの記憶とも、キドの記憶とも違う誰かの記憶だった


 まるでHMDを取り付けてゲームの中に吸い込まれていく時と同じように

 シーンは巨大になっていき、キドはその世界に飲み込まれていった


 キドの意識の中で


 フラッシュバックのように乱切りにされたシーンが次々と映し出されて行く



 金髪で長い髪の女性がこちらを振り向き、微笑む

「何してるの?……冒険に行かないの?」



 シーンは切り替わる

「数が多すぎる…一旦引きましょうっ!」


 眼下にモンスターの大軍が押し寄せていた



 シーンがまた切り替わる

「逃げて…王国にこの事に伝えてっ!」


 金髪の女性は黒いナニカにひきづり込まれながら、

 こちらに向かってそう叫ぶ


「◯◯◯!」


 男が何かを叫ぶが壊れた音声みたでよくわからない



 シーンがまた切り替わる

 男は誰も居ない荒野を1人で歩き続けていた


「大丈夫……きっと助ける……待ってて……◯◯」



 男は手に黒い玉を持っていた


 荒れ果てた荒野から草原に世界が変わっていく


「あと少し……あと少し……」




 シーンが切り替わる


 男は地面に倒れていた


 手に持つ黒い玉から細か伸びた黒い線が男の腕に侵入し


 黒い玉は目の前でドンドン大きくなっていく


 記憶を見ているだけのキドは思わず叫びそうになるほどそれは恐ろしかった



 シーンはまた切り替わる


 薄暗い部屋の中

 金髪の女性が泣いていたが


「…………誰か…居るの?」


 嗚咽していた女性が顔を上げると目が合う



 そして世界が粉々に砕けると……視界に映るのは見覚えのある宿屋の天井





【宿の中】

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「………………何だったんだ?」


 心臓の鼓動がバクンバクンと悲鳴を上げる程で止まらない


「キッド君っ!目を覚ましたのっ?」


 ベッドの隣から声をかけて来たのはモモレンの声だったが

 身体を上手く動かせない


 視界の中にモモレンの顔が入ってくきた


「何で…泣いてるんだ?」


「急に顔色が悪くなって…お医者さん呼びに行こうとしたんだけど………キッド君離してくれなくて……どうしたら良いか分かんなくて」



 モモレンが手を上げるとリキッドの手がガッシリと握りしめていた



「ごっごめんっ……もう大丈夫だから」



 慌てて手を離そうとするが…身体が硬直しているのか中々離さない



「大丈夫だから…痛くないから、もう少しこのまま休んでて」



 優しい笑顔に思わず見惚れて、距離が近づく2人に……

 突然、邪魔者が入ってきた



「あらぁ?お邪魔だったかしら?」

「リキッドさんっ!」



 ミーコがカズミを連れて様子を見にきた


 離さなかった手が何故か急に離れてしまいモモは少し機嫌が悪くなるが



「痛く無いから、もう少しこのまま……モモも随分大胆になったわね?」



「そう言う意味じゃないでしょおっ!」

 顔を真っ赤にさせて叫ぶモモレン


 何の意味だか全く理解してないキドは??を頭の上に幾つも乗せていた



「はぁ……本当にこういうのはポンコツなのね…」

 その様子を見て失礼な事を言うミーコに


「リキッドさん…大丈夫?」

 アルビノの瞳を持つカズミがベットの側にきて心配そうに覗き込んで来る


 前に食事を与えてからすっかり大リキッドに対して懐くようになっていた


「あぁ…もう大丈夫だよ…ありがとうな」


 心配そうに覗く小さいカズミの頭を撫でてやるとまたくすぐったそうな顔をすると落ち着かなかった鼓動が楽になっていく気がした



「ごめんね…和美がどうしても見舞いに行きたいって言うから………邪魔しちゃったかしら?」



「そんな事無いよ、あの後、どうなったんだ?」


 自分が突然倒れた後の事を確認する


 ミカは訓練所に登録に行き

 ビリケンは家族に帰りを報告しに向かったらしい


「それじゃ…私達もそろそろ帰るね?」


 いつも通りの復調した様子を見て、モモレンも一緒に椅子から立ち上がる


「帰るって…何処に?」


「まだモモの家は無いから、今日は私の家だね」



「そっか…分かった、明日から数日はダンジョンを休んで準備期間にするから、ビリケンにもそう伝えて貰える?」



「うん、私から伝えとくね」



「リキッドさんさよならあっ!」

 元気に手を一杯振りながら部屋を出て行く和美と、ミーコとモモレンをベッドの上で見送ると、急に静かになった部屋に

 なり、先程の体験のせいか不安になってしまう



 ふと窓から3人の声が聞こえてきて覗いてみると

 ミーコ、和美、モモレンの順で楽しそうに歩いていた


「……あいつら、いつも一緒で良いなあ………奴隷街…………そうだ…あるじゃん家っ!」



 ベッドから飛び起きたリキッドは3人を追いかけて宿屋から飛び出した

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奴隷ダンジョン えすってぃ @amainiku

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