第6話 楽ちん!? パワー・レベリング!
魔族襲来と<ダブルエクサ>変身から5日目。
戦闘訓練はある程度形となり、ついに王都の外に出て魔物を狩ることでレベル上げをすることになった。
「いや~しっかし最初の魔族襲撃以降、平和だったよな~」
「訓練はきつかったけどな! 魔法系のスキル持ちの女子とか、体力が増えた訳じゃないのにめちゃくちゃ走らされてしんどそうだったぜ」
王城を出て、中央道路を通り外に出るまでの間、駄弁っている若松 三郷(わかまつ さんご)と二葉 総士(ふたば そうし)。総士はこれからの女子の身を案じていた。
「歌ちゃん大丈夫かな……スキル<歌姫>だったじゃん。体力に補正無いんだよ」
「お前本当に歌ちゃん好きな。舞ちゃんのがかわいいだろ。スキル<舞姫>かぁ……まさに舞ちゃんのためにあるようなスキルだ」
「お前は舞ちゃんめちゃ好きだよな……歌ちゃんの方がかわいいけどな!」
「いいや舞ちゃんだ!」
「お前らうるせええええ!! 双子だぞ! どっちも顔一緒だろうがああああ!」
「「どう見ても違うだろがあああああああ! アホの城嶋 築太郎(じょうしま ちくたろう)!!」」
「なんでフルネーム!?」
「うるせぇ! 歌ちゃんと舞ちゃんの区別もつかねードサンピンが俺たちに話しかけてんじゃねえええ!」
「分かんねーよ! あいつら意識してお互いにモノマネしてんじゃねーか!」
「ぷぎゃ!」
「だろ? ……って、なんだこいつ!?」
築太郎の後ろに現れたのは、角の生えた豚だった。
「ホーンピッグだ! 全員警戒!」
兵士長が叫んだ。花海は彼の名前を結局覚えられていない。トリュフ兵士長だったかな?
「わわ、こっち来た! テラ危なっ!」
突然の突進に驚きながらも対応する花海。慣れた手つきで腰から抜いた魔銃の照準を付け、発砲。
「ぷぎぃ!」
角を直撃。ホーンピッグは衝撃で向きを変えた。木に向かって突進し、刺さった。
「実戦でもあのレベルで当たるのかよ……神エイムだよな……隠れた才能ってやつ? ていうか、兵士さんが魔物を”削って”くれるんじゃなかったのか?」
「仕方ないよ、流石に横から来たら……私は大丈夫だから」
「花海、そうは言うけど……」
「奏、小鳥、大丈夫だって! ほら、あっち見て!」
そこには魔物たちを蹂躙する兵士たちの姿。魔物寄せのお香で呼ばれた魔物たちは峰打ちのスキルによりHPを1だけ残され、縄で拘束されている。
そして糸使いの兵士が魔法〈装備自動召喚〉で縄を取り寄せる。クラスメイトたちは拘束された魔物に安全に各自の得物をぷすっと刺し、とどめを刺していた。HPを全損した魔物は、全身が結晶化し、風化して消滅するように息絶えていく。そして核のようなものが残った。そして捕獲担当の兵士が縄を回収し前線に向かう。サイクルが完成されていた。
魔物は消滅するとはいえ……血は出る。
「……うわっ、グロっ…」
「やりたくないなぁ……」
「いっそレベル上げなんんてしなくても……」
「いやでも私達隊長のデコピン一発で死んじゃうくらいの雑魚なんでしょ? レベルさえ上げておけば死ににくくなるんだからやらないと」
「でも小鳥ぃ〜」
「ほら」
花海は小鳥の腕を掴んで魔物に槍を突き刺させる。ぷすっ。ホーンピッグを倒した! 小鳥はレベルが上がった! 各種ステータスが上昇して、MPが全回復する。
「でも動物を殺すなんて〜」
「でも魔物って普段はボーッとしてるのに、人間を見ると無差別に襲ってくるんでしょ? ただの動物じゃないし、倒さないとじゃん」
「でも……」
『グワォォォォォオオオオオオオ!!!!』
落ち着いたのも束の間、翼の生えたライオン型の魔物が横合いから出現して花海を襲った。
「わあああっ!?」
咄嗟に躱して、手に持っていた魔銃でカウンターを入れてしまった花海。<月下美人>の効果が乗った魔銃はとんでもない威力(レベル比)を生み出し、さらにはヘッドショットのワンショットキルだった。
レベルアップ。MPが全回復。魔王の呪いがあるのでレベル30位の魔物を10体くらい倒してやっとレベル5だ。普通なら15は行っていそうなものらしいが。
「神エイム……」
花海の隠し芸、早撃ち。
<星墜炎団>を相手にしていた時、ボスを相手取っている<エクサ・ルミナス>に対して一般戦闘員の不意打ちが多発したので身についてしまったスキルである。ルミナスの最初の必殺技<フォトン☆ショット>は威力と弾速、チャージ時間の短さに優れていた。西部劇のガンマンレベルとは行かないが、1秒も待たずに撃てた数少ない魔法である。早撃ちの練習にはもってこい……というより、敵をオーバーキルしないための花海の優しさのために多用され、結果的にそうなっただけである。雑魚相手に強い必殺技は使わない。
とはいえ、<エクサ・ルミナス>変身中に今のような距離感で不意打ちされたときは、専ら素手で対応していたのだが。<フォトン☆ショット>は遠距離の不意打ちに対応するために使っていた。今まで培ってきた格闘センスを隠すために、咄嗟の対応も銃を選んだ花海である。
「ふぅ……びっくりしたー。兵士さーん! 抜かれてるようじゃ困るよー!」
「申し訳ございません!! お怪我はありませんか!?」
「花海、なんか様になってたね? 銃なんて使ったこと無いよね……?」
「お、お父さんにハワイで……」
「ミステリー小説家だっけ」
「いや違うけど。ほら奏、あっちで兵士さんが捕まえてるよ! やっちゃえ、プスッと!」
小鳥が奏を連れて行き、背中をポンと押した。
「(ナイス小鳥!)」
「(花海パスポート持ってなかったよね)」
それゆえの露骨な話題逸らしである。
その後、順調にレベルを上げた一行。太陽が傾き始める頃には、クラスメイト達はレベル24になっていた。累計で5000体くらいは倒している。
「よーし勇者諸君! 次レベルが上がると、またスキルポイントが追加されるぞ! 25なので<勇者スキル>や<クラススキル>が解放されるから、貯めていたポイントを使うチャンスだ!」
「「「おぉ〜!」」」
勇者一行は今日のノルマが見え始めて早く帰れるとテンションが上がり始めた。
「でもあれだな、スキル振りは俺たちに任せるんだな」
『グオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
それから森を進むこと数分。
「鉄砲蜥蜴だ! 各員抜剣!」
「トカゲだ〜! うわ水吐いたー!!!」
「は、花海、テンション上がりすぎよ。トカゲ好きなんだっけ?」
「いや〜なんか地球のトカゲとは違ってトゲトゲしてて、鎧みたいでカッチョいい〜!」
「グルッ?」
「騒ぐな、狙われるぞ!」
「テラやばいッ!? ええい!」
花海の元に突進を仕掛ける『鉄砲蜥蜴』。魔物はなんとなく相手のレベルが分かるので一団の中でレベルが低い者の内一人を狙った。敵の戦力を一匹ずつ確実に減らしていくというワンチャンスに賭けている。
バシュンッ、と音を立てて神エイムの魔弾が放たれる。しかし。
「花海、貫通魔弾は堅い魔物にはっ!」
チュンと音がして貫通魔弾は弾かれた。弾の選定ミスだ。
「(エクサルミナスの時なら一瞬で次の技出せるのに〜!)炸裂魔弾、セット!」
花海が炸裂魔弾をセットし終わった頃には、兵士が鉄砲蜥蜴に斬りかかり、体力を幾分減らしていた……が、突進の勢いは止まらない。
『グアァ!』
突進をあてるための牽制か、鉄砲蜥蜴が鉄砲水攻撃の予備動作に入った。それを見逃す花海ではない。
「そこぉ!」
炸裂魔弾が開け広げの口の中にドンピシャで放たれた。鉄砲水の魔力を巻き込んで爆発。鉄砲水が暴発して鉄砲蜥蜴は顎が外れ、突進の勢いが弱まった。
「倒し切れてない! だけど…!」
すると大盾持ち兵士のインターセプトが間に合う。花海と鉄砲蜥蜴の間に割り込んだ。
「テラ上手く行ったね! まだまだ行くよ、炸裂魔弾、ホーミングモードで曲射!」
なんと花海は上方向に魔弾を連射し始めた。それらの魔弾は不自然に弾道を変え、大盾兵士を迂回して鉄砲蜥蜴に直撃した。
兵士もびっくりの(そもそも魔銃のホーミングなど偏差射撃が必要な遠距離でしか使い物にならないとの認識)5秒ほどの射撃で鉄砲蜥蜴は沈黙したのであった。
それ以外には大したトラブルもなくパワーレベリングは順調に終わり、一行は城に帰ろうとしていた。格下とはいえ何千体もの魔物を処理した兵士達はもうヘトヘトの様子。
「みんなヘトヘトのヘロヘロだな。いっちょ俺の歌を聞いて元気を出してもらうか」
「芳樹の<サウンドマジック>ってギターだけでいいよね……歌が歌ってあげるよ」
「じゃ舞は踊る!」
「俺ギターボーカルだし。まあ舞ならいいか。回復魔法が出そうな曲は……『黎明に祈りを』」
切ないアルペジオで芳樹が歌い始める。
「眠れぬ夜 抱き枕は孤独に包まれ〜♪」
歌が聞こえる範囲、全員の疲労が少しずつ回復していく……が。
「いい歌ねぇ〜? だけど効果は低い。野郎ども、勇者どもの息の根を止めてしまいな!」
再び魔族襲来! 兵士達は疲れた身体を押してそれぞれ勇者達を取り囲んだ!
「数十人いるんじゃないか……!?」
「築太郎、目がいいな。アホなのに」
「うるさい総士! <虚空>使えよ!」
「味方も巻き込んじゃうんだよ!」
「行け!」
「「「応!」」」
後衛の魔族たちが魔法を放ち、前衛の魔族は魔力の剣を作って突撃してきた。
「歌! 歌えッ!」
「飛ぶよ 貴方は大切だけど 夢は寝て見るもの? 夢は起きて目指すの〜 大空高く飛び立てば 貴方もまた見えるわ だからちょっとだけ It's my JOURNEY〜
♪」
芳樹が曲を変えた。演奏が難しい代わりに全能力大アップ効果がある、『LOVE JOURNEY』だ。流石に弾き語れないのか、歌っているのは歌だ。舞はそれに合わせて踊っている。クラスメイトと兵士たちの全ステータスが10倍に膨れ上がった。パワーレベリングをしたとはいえ、勇者達のレベルは20と少し。魔族とはレベルにして20近い差があるが、それをひっくり返してしまうほどの凄まじい強化スキルだ。
それを兵士が受ければどうなるか。パワーバランスが勢いよくひっくり返るのだ。魔法の初撃を盾で受けた兵士は勇者の力に驚愕した。これなら手の甲でもノーダメージだ。
「反撃するぞ!」
「「「「いやぁああああああああっ!」」」」
「「「「グワァーッ!」」」」
「行けるぞ、第一分隊、押せッ!第二から第四は勇者様方の護衛ッ!」
「あっ、待って! 歌が聞こえないところに行ったら!?」
「「「「「「グワーッ!」」」」」」
兵士たちに魔族の火炎魔法が直撃した! この世界にはまだスピーカーがないので、離れた兵士達は歌が聞こえず、<歌姫>の効果が切れてしまっていた。視界の範囲内だったため<舞姫>の効果は乗っていたが、素のステータスの2.5倍の防御力でダメージを受けた第一分隊は慌てて後退してきた。
「行け!」
「「「「「おおおおーッ!」」」」
「「「「うわーっ!?」」」」
そこへ近接攻撃の魔族たちの突撃! 今度は<歌姫>が乗っていたので痛手とはならなかったが、第一分隊は防御ラインを崩された!
クラスメイト達に魔族の3割が殺到する。
「抜かれすぎでしょ!」
「第二から第四、勇者様を守れ!」
「双子と芳樹を守れ!」
松本零の咄嗟の号令により、クラスメイトの意識が歌っている者達に向き、視野が広がった。双葉総士が最初に動いた。
「行くぜ、<虚空>!」
魔族の突撃を防ぐように、空間が球形に削り取られる。勇者達の周囲を囲むように、物理防御無視、魔法防御でしか抵抗できない、触れたものを触れただけ削り取る虚空が現れた。
盾を構えて突撃する魔族。盾を貫通し、胸も虚空に触れて削り取られた。虚空には触った反力が無いので、慣性で通り過ぎる。
第一陣は胸に穴を開けてその場に倒れた。血がドクドクと周囲に広がっていく。
「うわ総士えっぐ……」
「なんだあの技は!? 気持ち悪ッ!? ええい、飛び越せ!」
「うるせえやい!」
後続の魔族は虚空に当たらないようにジャンプする。虚空はとても強力だが、素早く動かすことができないし、出も遅い。不意打ちでなければ、容易に回避が可能だ。
ババババババシュンッ!
「読み通りだね。総士くんナイス!」
<月下美人>の効果でMPがほぼ使い放題な花海は、真っ先に最上級強化魔法を覚えていた。適性もあり今日までに間に合ってはいたのだが、今のところ一度に使える魔法は一種類までだ。
今使っている魔法は《感覚強化》。五感、魔力感覚、魔力感覚を第六感だとすると第七感までも強化され、反射神経や動体視力、音の聴き分け、匂いの嗅ぎ分け、超長い箸で豆を掴める、魔法の詠唱が早くなる、極めれば霊が見えるなど、その有用性は枚挙に暇がない。
《感覚強化》により体感時間が延長されている花海は、虚空を避けるためにジャンプして無防備な魔族に〈衝撃魔弾〉を命中させていく。銃の連射性能が間に合っていないのもあるが、着地までは一瞬なので半分くらいを撃ち落としたに過ぎないが、数減らしには十分だった。全弾命中。
レベル差によりダメージは少なく、突貫してきた魔族は足止めされた程度に留まったが、それ以上の突破力を失う形となった。
「勇者様に見せ場をとられるな!」
「「「おおおりゃあああ!」」」
一点攻勢、残りの魔族には兵士が格闘戦を仕掛けていった。今度は双子と芳樹が前線に合わせて移動しながら戦い、戦局は魔族劣勢となった。
その後、戦いは順調に進み、残りはリーダーの魔族だけとなった。
「退け!」
「やだね!」
「なぜ全滅するまで戦う必要がある! 貴様の同朋は我々が討ち取ったぞ!」
「ふーん。でも関係ないね。僕が一番強い。君たちの戦いを見ていたけど、誰一人としてこのアレハ様には届かない事が分かってるんだよね」
「やってみなければ分からないだろう! 何故なら−−」
「勇者サマがいるから? スキルの力で底上げ?」
アレハは爆笑する。
「そんなのは関係ない。何故なら……さっきまで君たちが戦っていたのは、僕が作った人形なのだから」
アレハが指を鳴らした瞬間、勇者達と兵士を囲むようにして"本物の魔族兵士"が転移してきた。
魔法少女エクサ・ルミナス、異世界に召喚される 七次元事変☄️💥 @seventh_dimension
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