身代わり

かしまからこ

第1話

「何これ、かわいい~!」

「これ、有名な神社で買ったお守り。けっこう高かったんだ」

「え~、おしゃれ!」

学校からの帰り道、友達にリュックにつけてるお守りを褒められた。

六角形で黒色、真ん中にきれいな飾り文字で「guardian(守り神)」って書かれている。

シックでぱっと見お守りって分からないから気に入ってるんだ。


小さい頃、家族と京都に旅行した時に、わたしが「どうしても買って」ってねだったらしい。

もう覚えてないけど。


友達がふいに場所を移動した。

「そういえばさ、今日の数学の時…」

急ブレーキの音。

そして、衝撃音。

目の前で友達の体が宙を舞った。


「きゃー!!!」

「大丈夫ですか?!」

「救急車!」

人通りの多い道だったから、すぐ騒がしくなった。


けっこう仲良しだったし、性格もいい子だったから涙が出た。

「ごめん…」

誰にも聞こえないであろう声で友達に謝った。

そして、ああ、まただ、と思った。


何人目だろう。

私の身代わりになって誰かが怪我するのは。

今だって、友達は直前まで安全な方にいたのに。

車が突っ込んでくる一瞬前に車道側に来た。


これがこのお守りの力。

身代わり守りっていうんだって。

私の代わりに、不運を引き受けてくれるってやつ。

でもこれは、このお守りが引き受けてくれるんじゃなくて、私の周りの人が引き受けてくれる。

家族や友達、全く知らない人まで。

私が受けるはずの不運をさっきみたいにほんの直前で対象をずらしてくれる。


16年間生きてきて気付いたけど、どうやら私は不幸体質らしい。

普通に生きてたらこんな不運に見舞われないだろってくらいの不運を呼び寄せてる。

しかも質の悪いことに、自分にじゃなくて周りの人へ。


「あなたお友達?いっしょに来てくれる?」

看護師さんに言われ、救急車に乗り込む。


でもさ、思うんだ。

近くに人がいなかったらどうなんのって。

そして、いつまで効き目がもつのかなって。


「血圧は?!」

「70です!」

慌ただしい車内。

私は見ていることしかできない。


「きゃー!!」

「うわっ!!」

突然車が急ブレーキをかけ、前につんのめった。

そして次の瞬間、激しい衝撃音。


「救急車が事故った!!」

周りが騒がしくなる。


ああ、もう、ごめんなさい。


お医者さんも看護師さんも血を流して倒れている。


そして感じた。

これは世界中で私が独りぼっちになるまで続くんじゃないかって。


そう思うと、なぜだか。


血まみれの救急車の中で。


笑みがこぼれた。




おわり

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身代わり かしまからこ @karako

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