寓話のなかに悪意と集団心理の恐ろしさを描く

動物が主人公という寓話的なかたちをとりながら、人間社会に巣食う闇をくっきりと描き出した作品です。

旅をしていた一匹オオカミは、ある森とそこに住む様々な動物たちに出会います。動物たちの関係、彼らが暮らす森の掟など、そのまま人間の世界に通じるところが読み手にも身近に感じさせます。

登場する動物の中でも際立つのが、圧倒的な影響力をもってオオカミを貶めようとする猿。言葉巧みで計算高く、攻撃性を被害者の仮面で隠すなど、悪意を正当化する心理が綿密に描写されています。
そして同時に猿の言葉を鵜呑みにする動物たちの心変わりにも空恐ろしいものを感じます。誰もが疑問に思うことなく猿の言葉を信じてしまうのがいかにも現実的で、思考操作されたひとりひとりが集団心理を作っていく過程がなんとも不気味です。これは個人単位や小規模な集団だけでなく、国家としての在り方にも通じるものがあるのではないでしょうか。

孤立させられていくオオカミの心に迫る情景、そして苦しみの末に彼がどういう道をたどるかは、ぜひとも読んでお確かめください。
そこにはきっと、闇へと突き落とされた者に対する心の持ち方のヒントが隠されているはずです。