1話 人生の始まり

 -これは本当にまずいことになった。

 何がまずいのかと聞かれたら人生そのものと答えなきゃいけないのがとても辛いがそれは置いといて、彼が今直面しているのは彼の人生の中でも必須アイテムの『ケチャップ』がないのだ。

 なんだ。ただの『ケチャップ』ごとき無くても困らない。そう思う人もいるだろうが彼にとって『ケチャップ』は人生そのものである。じゃがバターにケチャップ、キュウリにケチャップとこの二つだけでも彼にとってケチャップがいかに重要かが分かるだろう。

 そんな彼-西 はこの問題をどう対処するかに頭を悩ませていた。

「うぅ…………」

 今は深夜だ。スーパーは閉まっているしコンビニにケチャップが売っている確証はどこにもない。

 そしてまず財布にお金が入っていない。

 頭を悩ませること早1時間。部屋を歩き回り途方に暮れていたが無けなしのお金を持ちコンビニ行くことをきめ部屋を後にし玄関をでた。

 夜は明るく-「え?夜が…明るい!?」

 そして一呼吸おき、

「あ、あぁこれが異世界転移ってやつか」

 目の前をリザードンがを引きドワーフが運転する馬車が通った。



 2



 西蓮寺 仁は宇宙でも珍しい自然溢れ人類が暮らせる星地球で17年前生を受けた。

 この異世界転移が彼の後世だと言うのなら彼の前世を語るにはそれほど時間はかからない。

『高校から不登校になり家に引きこもった親泣かせ』

 これさえ語れば西蓮寺 仁の17年分の人生を話した事と同じである。

 進学と就職。人生の分岐点にたった時人は決断を迫られる。その時仁は人よりだらけ質で面倒くさがりだった。だがそんな仁だが『最高のケチャップを作る』これを将来の夢とし『ケチャップ作り』という名目で高校を自主的に休む日々が増え今では立派な親泣かせだった。

「挙句の果てに異世界転移か……どうなってんだ俺の人生」

 なんてことを考えても仕方がない。と考えるのを後にし街を歩き始めた。

 建物は中世ヨーロッパ風の建物、歩くのは人やエルフ、亜人など様々な種類いる。そんな街中は見たことないものも多くある。ていうかほとんど見たことないものだ。

 人も物も食べ物さえも見たことがない。

 だがそこでふと見た八百屋であれを見つけた。

「このトマトって美味しいのか?」

「何言ってんだお客さん。これはマトマだぞ」

「いやどう見てもトマトでしょコレ」

「買わないなら帰りな」

 情報収集を少しでもしたかったのだが手でシッシと冷たい対応をされ仕方なくの街を再び歩き始めた。

 1度人と話したことで冷静になりふと足を止め考え直す。

「俺をここに呼び出したのは美少女はどこだ?なんでエクスカリバーの1つも持ってないんだ?なんで服装がジャージのままなんだ?」

 とゆとり人にとっては辛すぎる初期設定に弱音と文句をこぼす。

 まず地球から持ってきたものも急とはいえ異世界転移には相応しくない。

「財布230円とレシート多数、ポッケに入れっぱなしのボールペンとメモ帳とスマートフォン。あの状況でこれだけ持っていたのを褒めるべきかこれしかないと責めるべきか……いやいや今はそこよりこの後どうするかだ」

 今のままだと確実に飢えて死んでしまう。

「まずは職に着きたいものだがどうするか……」

 すると壁にアルバイト募集の紙が貼ってあるのを見つけた。なぜこの世界の文字が読めるのは分からないが、今は空に気を振っている暇はない。

 住所不定の人でも雇ってくれるところみたいだったので早速応募し即採用、即日勤務だ。

 建築の補助で1日のみの勤務となっている。

 短時間ではあったが重労働を終え、お金を貰い解散となったあと俺は街の路地裏をぶらついていた。

 どこに何があるのかもわからないので途方に暮れ歩いていると、

「オイ兄ちゃん」「出すもの出してとっととさりな」、街のチンピラ、裏路地、話しかけられる=「定番イベントの開催だ!」



 3



 相手の薄ら笑いに愛想笑いで返しジンは思想する。確かに状況は圧倒的不利だ。人数負けてるし相手はダガーの様な武器も持っている。だがジンは余裕があった。

 古来より異世界に転生、転移した日本人は必ずチート能力を授かっているものだ。

 それをこいつらで試すいい機会、そう考え実行に移す。

深く息をすい、大きな声で、

「おまわりさーん!!!」

 余裕の笑みを浮かべていたジンはそう叫んだ。

「お前なんてことしてくれる」

 とチンピラ達は直ぐに立ち去ろうとするが、

「-そこまでだ」

 その声は明確に、路地裏の乾いた緊迫感を切り裂いていった。凛とした声音には躊躇の欠片もなく、一切の容赦も含まれていない。聞くにただ圧倒的な存在感だけが叩きつけ、その意志を伝わせるそれは神とすら思えるほどだ。

 ジンが顔を上げ、チンピラが振り返る-その先には-1人の青年が立っていた。

 まず最初に目を引くのは、夜の境界に在るような紫の髪だ。

 その下には神譲り以外の例えようのない程に赤く輝く瞳がある。異常なまでに整ったその容姿を後押しし、一瞥で彼が一角の人物だというのが分かる。

 すらりと細い長身を、仕立ての良い白黒の服に身を包み、その腰にはシンプルな装飾-ではあるが、その紋章入りの剣からは気迫を感じてしまう。

「彼とどのような理由があってこうなるのかは分からないが、それ以上彼に関わるのは認めない。そこまでだ」

 言いながら、青年は悠々とチンピラの横を過ぎ、チンピラとジンの間に入った。

 そのあまりに堂々した態度に、言葉を失うジンに対してチンピラの反応は違った。

「紫の髪に赤い瞳……紋章の入った剣。まさか……」

 信じられないものを見る目で青年を見つめ、チンピラは声を揃えて言った。

「クリュサオル……。父に国の英雄であり、反乱者と言われてるポセイドン様を持ち『黄金の剣』を持つと言われてるクリュサオルか!?」

「自己紹介の必要がないようで何より。……それと『黄金の剣』はやめてくれ」

 クリュサオルと言われた男は自嘲げに呟くが、その眼光はゆるまない。

「このまま何もせず逃げ出すのならこの場は見逃す。だが実力行使と来るならこちらもそれなりの対応をさせてもらう」

 腰に下がった剣に手を当て言う。

「ふ、ふざけるな。割りにあわねえよ」

 言い放ったクリュサオルの言葉を聞き蜘蛛の子を散らし大通りに逃げていった。

 捨て台詞さえ吐かせずに消えていく、このことだけでどれだけ規格外なのかがよく分かる。

「お互い無事でなにより。ケガはないかい?」

 チンピラが消えたのを見計らってから、青年は振り返り笑みを浮かべて言った。

 途端、あの緊張感で絞め殺されそうな雰囲気がなくなった。その威圧させも青年のやった事だと思い、ジンは絶句した。

「あんだけのことしといて……ほんとに同じ人類なのか」

 そう、青年の立ち振る舞いに声と顔、人間として眩しすぎる。これで家柄と性格が良かったら、裏で女を捨ててなかったら釣り合いが取れないレベルだ。

 そんな嫉妬心丸出しの心境はさて置き、お礼をする。

「今回は命を救って頂きありがとうございますクリュサオル様」

「いいんだ。僕の仕事は人の命を守ることだからね。それにそんな固くならなくていいよ」

「あぁ……なんカラットあんだよ眩しすぎるだろ。なんだこの爽やか指数。イケメンで見たところ性格も良くて、チンピラの反応的に家柄も良い。なのに人思いの優しい心。やっぱり眩しすぎて目が潰れるわ!!」

「そんなことより、さっき様を付けて読んだだろ?そんな固く呼ばないでくれ」

「ならクリュサオルさん」

「さんもいらないよジン」

「この距離の詰め方……女の子ならイチコロだな。そ言うことならそう呼ばせてもらうクリュサオル」

「あぁ助かる」

 完璧な美貌を崩さない笑顔で言う。

 それとと続けて

「君は普段何をしているんだい?」

「 実を言うと、今日この待についてな。仕事がないんだ」

「そうだったのか。なら王都の近くで歩兵登録でもしてくるといい。僕の名前を出せだ1発で登録出来ると思うよ。それに君は歩兵以外になると思うし」

「歩兵……」その言葉に多少の怖さを感じる。だが厨二病患者としてはここからの成り上がりなんて考えていると…………

 クリュサオルの周りに光の小さな玉が集まり始め、クリュサオルに何かを伝えていた。それを聞いたクリュサオルは「そうか……すぐに向かう」と美貌を崩さず沈んだ顔をしながら、小さな光の玉に言った。

 そしてジンの方に向き直し、

「ちょっと呼び出されちゃったみたいだ。残念だがここでお別れだ」

「そうかさっきはありがとな。何かは分からんがまた同じように救ってこいよクリュサオル!」

「ありがとうジン」

 そう言ってクリュサオルは目にも留まらぬ速さで消えていった。



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