もみの木と彗星と魔法の粉

RIKO

もみの木と彗星と魔法の粉

 クリスマスの昼下がりのことです。


 町にこっそりと遊びに来ていた、こぐまのきょうだいは、家々に、かざられているクリスマスツリーを見て、目をかがやかせました。


 緑のもみの木の上で、お星さまや、サンタのくつや、クリスマスベルが、きらきらと輝いていたからです。


 森の中には、こんなもみの木は、どこにだってありません。


「いいこと、かんがえた! ぼくらの森のもみの木も、こんなふうに、きれいにかざろうよ」


「なら、木の実を、たくさん、あつめよう」



 さっそく、こぐまのきょうだいは、かざりになりそうな、松ぼっくりや、ナナカマドの赤い実や、ヒイラギの枝などをあつめはじめました。


*  *


 森の中にある、こぐまのきょうだいの家の前には、屋根ほどの高さのある、大きなもみの木がありました。


 いそいそと、ひろってきた木の実をかざりだした、ふたりを見つけて、


 野うさぎは、つけ根に星型のもようのある、黄色のマンリョウの実をかざってくれました。


 子リスは、小さなバラのような、むらさき色のクリスマスローズの花を、腕いっぱいにかかえてきました。


「上のかざりは、おいらにまかせなっ」


 山ねこは、木登りがとくいだったので、もみの木のてっぺんにも、かざりをつけてくれました。


 できたてのクリスマスツリーは、とても、きれいで、どうぶつの子どもたちは、だいまんぞくです。


 その時です。


 みんなの鼻先に、こおばしくて甘いハチミツの香りがただよってきたのです。


「さぁさぁ、みんな、おいしいクッキーを焼きましたよ。たくさん焼いたから、ちょっと休けいして、おやつの時間にしましょうね」


 こぐまのきょうだいのおかあさんが、にこにこしながら、庭に出した大テーブルの上で、焼けたばかりのクッキーをオーブンの天板からお皿にとりわけています。


「すごいや、こぐまに、子リス、野うさぎに、山ねこ。みんなの形をしたクッキーだ!」


 おにいさんぐまが、みんなにいいました。


「ぼく、また、いいこと、かんがえた! この中から、自分の形のクッキーを1つずつえらんで、もみの木にかざろうよ」


 どうぶつの子どもたちは、自分とおなじ形のクッキーをえらんで手に取ると、それをクリスマスツリーにかざりました。


 ちょこんと枝の上にのったクッキーは、まるで、自分のかわりに、クリスマスツリーの中で、あそんでいるようです。


 おかあさんぐまが、星型のクッキーを取り出して、いいました。


「なら、山ねこくんにお願いして、このお星さまのクッキーは、もみの木のてっぺんに、かざってもらおうかしら。今日は、とても、めずらしいお客さまが、来ているから、その方にも見てほしいから」


「めずらしいお客さま?」


 どうぶつの子どもたちが、おかあさんぐまの、となりを見てみると、


「やあ、こんにちは」


 灰色の帽子に灰色のマント。背中に長い双眼鏡をしょった風変りな男が、大テーブルの椅子に腰かけながら、こちらを見ているのです。


 おかあさんぐまが、いいました。


「この方は、たまたま、この森を通りかかったコメットハンター(彗星探索家)なんですって」


「コメットハンター(彗星探索家)?」


 ふしぎそうな顔をした、どうぶつの子どもたちに、男はほほえみ、


「僕は、ほうき星のしっぽを追いかけて、世界中を旅しているのさ。夜には、出かけなければならないけれど、おかあさんぐまの焼いてくれた星型のクッキーが、あんまりおいしそうだったんで、つい、より道をしてしまったんだ」


「へぇっ、ほうき星のしっぽを追いかけているなんて、すごいねぇ!」


 男は、にこりとわらって、いいました。


「ほうき星もいいけれど、みんながかざりつけた、もみの木も、見ればみるほど、すてきなクリスマスツリーだね。ぼくは、今まで、たくさんのクリスマスツリーを見たけれど、その中でも、ここのツリーが一番きれいだよ」


 それを聞いて、どうぶつの子どもたちは、とても、しあわせな気分になりました。


★ ★ ★


 夜がやってきました。


「それでは、ぼくは、これで、しつれいします」


 コメットハンターの男が、そういって、森のみんなに、別れのあいさつをしようとした時、


「……みんな、どうしたっていうんだい?」


 泣きべそをかいている、どうぶつの子どもたちの姿を見て、男は顔を曇らせました。


「だって、せっかく、かざったクリスマスツリーが、なにも見えなくなってしまったんだもん」


 空には、明るい星がかがやいているというのに、夜になって、くらくなった森では、どうぶつの子どもたちが、かざった、もみの木のかざりは、何も見えなくなってしまったのです。


 たき木で、辺りをてらしてみても、家の屋根まで高さのある、もみの木の上までは、光はとどきません。


「町のツリーは、夜でもピカピカ光っていたのに……僕らのツリーは、まっくらだ。僕らのツリーは、一番じゃなくなっちゃった」


 泣き出してしまった、どうぶつの子どもたち。


 それを見ていたコメットハンターの男は、とても、つらい気持ちになりました。その時、彼は心の中で、少しだけ、まよってしまったのです。……が、すぐに気持ちをきりかえて、おかあさんぐまに、いいました。


「おかあさんぐまが、焼いてくれた星型のクッキーは、まだ残っていますか」


「まだ、ありますよ。けれども、これをどうする気なんですか」


 ふしぎな顔をして、テーブルの上に星型のクッキーをだした、おかあさんぐまに、コメットハンターの男は、笑みを浮かべると、


「こうするんですよ」


 と、上着のポケットから小さな袋を取り出して、その中から、きらきらと輝く粉を、星型のクッキーの上にふりかけました。


 それから、泣きべそをかいている、どうぶつの子どもたちに、いいました。


「さぁ、これから、みんなで、この星型のクッキーを、あのもみの木に、かざるんだよ。山ねこくんは、一番大きな星のクッキーを、こわさないように、ツリーのてっぺんにつけて、おくれ」


 どの子どもたちも、ちょっと、とまどった顔をしました。コメットハンターの男が、何をしようとしているのか、よく分からなかったからです。


 けれども、


「早く、早く! そうしないと、彗星のしっぽの粉の光が、きえてしまうから」


 そんな風にせかされて、大急ぎで、星型のクッキーを、もみの木の上に、かざりつけるのでした。


☆ ☆ ☆


 ぜんぶの星型のクッキーをかざりおえた後に、こぐまのにいさんが、コメットハンターに、たずねました。


「ねぇ、いったい、なにをする気?」


「星をよびよせるのさ」


「お星さまを? あの星型のクッキーで? そんなことができるの」


「できるさ。僕が、星型のクッキーにふりかけた粉は、ほうき星のしっぽが残した、彗星の粉。いつもは、僕は、それを彗星を見つける時につかうのだけど、今日は、みんなに親切にしてもらったお礼さ。それにね、あんなにおいしいクッキーに、星たちが目をくれないわけがないんだ。彼らは意外と、くいしんぼうなんだから。だから、ちょっと、しずかに空を見上げていてごらん。じきに星たちが、ここにおりてくるから」


 コメットハンターの言葉に、どうぶつの子どもたちのしんぞうは、どきどきと高なりました。


「ぜったいに、声を出しちゃいけないよ。そうしないと、星がにげてしまうから」


 やがて、暗かったもみの木の上に、明るい光がひとつ、あらわれました。


 ”みんな、ここにきてみなよ。すごく、おいしそうなクッキーが、おいてあるよ。ぼくらとおなじかたちをした、星型のクッキーだよ”


 そんな、すきとおるような声とともに、空から、いくつもの星が、もみの木に向けて、おりてきたのです。


 星々をいっぱいに抱えた、もみの木は、またたく間に、光かがやく木となって、くらかった森を、明るくてらしだしました。


 すばらしくきれいなクリスマスツリーが、どうぶつの子どもたちの目の前にあらわれたのです。


「すごい、すごい! お星さまがいっぱいのツリーを、こんなに真近に見れるなんて」


 どうぶつの子どもたちの歓声が、大きく響いた後にも、星たちは、もみの木を去ってゆきません。コメットハンターは、にこりと笑みを浮かべました。


「これなら、大丈夫。今夜はどんなに騒いでも、夜明けがくるまでは、彼らはクリスマスツリーを明るく照らし続けてくれるだろう」


 どうぶつの子どもたちは、とてもうれしくなってしまって、大きな声で、歌い出してしまいました。


 森のクリスマスツリーは一番♪


 お星さまのツリーが一番♪


 森のクリスマスは最高♪


*  *


 朝が来て、いつの間にか眠ってしまっていた、どうぶつの子どもたちが、目覚めた後には、コメットハンターも、星たちの姿も、森には、もう見つけることができませんでした。  


 おかあさんぐまが、みんなにいいました。


「コメットハンターさんは、また、彗星を追いかけて旅にでてゆきましたよ」


 目の前には、木の実のかざりだけがのこった、もみの木が、立っていました。


「長い時間をかけて集めた彗星の粉を、あの人は、僕らのために使ってくれたんだね。だから、僕たちは、あんなにきれいなクリスマスツリーを見ることができだんだ」


 にこりと笑って、うなづいた、おかあさんぐまに、おにいさんぐまがいいました。


「また、来年のクリスマスにも、あの人はここへ来てくれるかなぁ」


 おかあさんぐまは、にこりとほほえんで、てっぺんが、きらきらと輝いたもみの木を指さしました。


「きっと、きてくれますよ。だって、彗星の魔法の粉が、まだ、そこにちょっぴり、残っているんですもの」


 それを聞いた、どうぶつの子どもたちの心は、来年のクリスマスが、待ちきれなくなってしまうのでした。



               ~完~

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もみの木と彗星と魔法の粉 RIKO @kazanasi-rin

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