あー。

 こっからは蛇足。

 見なくていいし。

 見て欲しくない。

 寝る間際。

 死際の人間の戯言です。



 あーもう。


 なんで……。


 ダメだ。


 これはもう。


 本当。


 ……うん。


 ……うん。


 ごめん。

 

 ごめんね。


 さっき、

 忘れてください、なんて。


 お願い、

 なんて言葉まで使って。


 そんな言葉の後に、


 ごめん。


 本当にごめんね。



 ごめん。

 ごめん。

 ごめん。

 

 こんな……重い女で、


 ひどい女で。


 醜くい女で。


 本当に……ごめん。

 

 でもね。

 でもさ。


 ……うん。


 なんでだろ。


 今ね。


 とっても、目が……しょっぱいんだ。


 口の中が……海の味がするんだ。


 膨らんで、とめどなくて。


 もうすごいぐらいに塩の味がするんだよ。


 塩の匂いがして。

 

 まるで……海にいる気がするんだ。

 

 まるで……海を見ている気がするんだ。



 あぁ。


 会いたい……。


 会いたいよ。

 

 君に会いたかったよ。


 一回でいい。


 一回だけでもいい。


 君と一緒に海に入りたい。


 一緒に海を見たかった。


 あの光を見たい。


 笑い合いたかった。

  

 一緒に——泳ぎたい。 

 

 好きです。

 

 大好きです。

 

 愛してます。

 

 本当は忘れて欲しくなんかない。

 私のことを覚えていてほしい。

 ずっと。

 ずっと。 

 私のことを好きでいて欲しい。

 愛して欲しい。

 

 でも——。

 

 そんな願いは君を苦しめるだけなのもわかってる。

 そんなことはわかってる。

 こんな頼みはさっきの頼みと矛盾していることなんてそれこそわかっている。

 アホな願いだなんてそれこそわかっている。

 君を傷つけてしまうことになることぐらいわかっている。


 それでも

 それでも


 頭の片隅でいい。

 すぐに忘れてしまってもいい。

 もう二度と思い出さなくても、いい。


 だからせめて、

 あの水面、あの海の光を見たときは

 

 私のことを——思い出して欲しい。

 

 『陽子』という女の子が

 あなたのことを

 心の底から

 愛していたんだ——って。

 

 それだけ。

 それだけを思い出して欲しい。 


 それが最後、私のわがままです。

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海が太陽のきらり 西井ゆん @shun13146

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