ある民間軍事会社の平日
琴猫
ある民間軍事会社の平日
【ヴルグ内戦とは】
2015年から発生した南アジアの国家ヴルグ王国で起きた民主化運動を起因とする、政府軍及び反政府軍、それらの所属・同盟組織等による内戦。
ヴルグ王国内における国王や閣僚らによる汚職・民主化運動に対する弾圧に不満を持った市民らが過激化、軍部の反政府勢力と合流することによって武力衝突へと発展。大規模な内戦へと激化した。
ヴルグ王国が中国と国境を接していることもあり、また財政再建を推進するアメリカのハーバード・ドナッシュ大統領の意向等から国連安全保障理事会はアメリカ、中国、ロシアによる拒否権行使により一切の決議を起こすことができずに機能不全。水面下で様々な勢力が関与していることもあり、状況は泥沼化している。
内戦開始から10年に渡り継続しており、死者19万人。人口1489万人の半数が国外難民として周辺国に逃れている。
(引用:時事単語ネット.com)
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市内にある洒落たオフィスビルの一つ。
生命保険や医薬品のネット通販、新聞社の支社などがテナントとして名を連ねる中、19階に【西日本民間軍事サービス】という会社がある。
まだ真新しいスーツに身を包んだ銃岡啓斗は、まだ慣れない手つきでカードキーをかざし、扉の端末にパスワードを入力する。最初の頃はメモを見ながら恐る恐る、といった風だったが入社からようやく1か月が経った今、難なく18桁のパスワードを叩くことができるようになった。
パスワードが認証され、金庫扉のような分厚い扉が左右にスライドする。
中に入ると―――何の変哲もないオフィスが広がっていた。
ずらり、とデスクとパソコンが並べられ、インカムを付けたオペレーターが20人ほど、せわしなくキーボードを叩いている。1つのデスクにつき3つのモニターが置かれ、絶えず様々な情報を流し続けていた。
「―――はい。はい。かしこまりました。それでは入金を確認しましたので直ちに近接航空支援を………」
「送信いただいたデータの方受領いたしました。攻撃優先度としましてはポイントD178の戦闘車両No.7でよろしかったでしょうか?」
「ご利用ありがとうございました。またのご用命をお待ちいたしております」
先輩オペレーターたちが丁寧な口調で対応し、目まぐるしくキーボードのコマンドを叩いていく。いつ見ても凄まじい光景だ。
とにかくも啓斗は、暫定的に自分に与えられた席に座った。隣では早出の先輩オペレーターが、他の人と比べて落ち着いた様子で自席のモニターを眺めている。
「お、おはようございます」
「ん? ああ、おはよう。銃岡君は10時からの出勤だったっけ?」
「あ、はい。20分ほど早く来ちゃったんですけど………」
「偉いねぇ。じゃあ、今日のミッションについて軽く打ち合わせしとこうか」
プロジェクト【対ヴルグ内戦】チームのリーダーでもある音崎さんは「ん」と今日の予定表を啓斗に手渡した。
「昨日から政府軍が頑張っててね。ミルタヤ市のラピダ橋以西がすっかり政府軍に持ってかれてるんだ。逃げ遅れた自由ヴルグ軍と反政府派の市民がこのラターキャ区で包囲されててね。このままだと全滅するよ」
「じゃあ、自分は先週みたいに物資投下を?」
「いや、そろそろ実戦にも参加してもらおうかな」
実戦。その言葉に啓斗の心臓は高鳴った。
この会社【西日本軍事情報サービス】の事業内容は、日本製無人戦闘攻撃機(UCAV…Unmanned Combat Air Vehicle)〝FQ-02〟を用いた海外での航空支援受託会社だ。
基本的には自衛隊や海外の軍隊の演習支援業務を行っているが、音崎さんのグループでは今、会社が自由ヴルグ軍と契約し反政府勢力への物資投下や近接航空支援、航空偵察業務などを行っている。
啓斗は新人であることもあり、ヴルグに展開している機材の状態監視や物資投下・安全域での偵察データ処理作業など裏方の仕事に先日まで取り組んでいた。
そして今日、啓斗に与えられた仕事は、実際に兵器発射ボタンを押して敵―――政府軍の兵士を殺す、近接航空支援業務。
「わ、分かりました………!」
「緊張しなくてもいいよ。画像はグロくないよう加工されてるし、実際の現地との通話も全部AIが日本語に処理してくれるからね。極端に荒い言葉も翻訳時に言い換えられるし、ほとんどゲームみたいな感覚で仕事ができるはずだよ」
こくり、と啓斗は頷いた。その辺りは会社説明会や面接で説明された通り。それに今まで無人戦闘攻撃機に触れた時と同じだ。
「それじゃあ、パソコン立ち上げて準備してね」
「はい!」
啓斗はすぐにパソコンを立ち上げた。3つのモニターがオンラインとなり、すぐに作業が開始できる状態になる。
音崎さんが「さて………」と自分のモニターに視線を戻し、
「じゃあ、今天塚さんが制御権持ってる7番機を使おうか。天塚さーん。いい?」
「あ。はーい」
前の席で作業している先輩社員の女性、天塚さんが応えて、3機制御しているうちの1機の制御権を啓斗のパソコンへと移譲した。
「燃料注意しといてね。空戦とかはちょっと厳しいかも」
「りょ、了解です」
「はは、気負わなくてもいいよ。自分、入社して3年だけどまだ1回しか実空戦したことないし」
「あ、でも演習とかで空戦はあるんですよね?」
「うん、そうだよ。基本的だけどね。………でも実は1回だけF-15Eを撃墜判定したことがあるんだよねぇ」
日本の無人戦闘攻撃機FQ-02はアメリカのX-47無人戦闘攻撃機に似たフォルムを持つ機体で、その設計に日本の国産機開発計画のデータが活用されたこともあり、F-35にも劣らない高性能な機体に仕上がっていると評判だ。
しかし、そのスペックは限定的に運用されており、特に西日本軍事情報サービスで運用される機体は本来の性能の75%程度しか発揮できない。
「まあ、もし政府軍の戦闘機が出張ってきたら撤退していいから。そういう契約だし」
「分かりました。えっと、オペレーション開始します」
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現在位置確認。
ヴルグ王国首都ミルタヤ市ラターキャ区西側124キロの地点。
装備確認。
丸菱重工製AGM-2空対地ミサイル×2
JM121-A 20mmガトリング機関砲×500発
状況確認。
反政府軍の一勢力及び多数の民間人がラターキャ区内にて包囲され、政府軍による砲撃や空爆に晒されている。
取り残された反政府軍への近接航空支援が契約内容。
政府軍は歩兵を展開中。また47番ストリートより戦車の前進を確認。要排除対象。
注意事項。
火器の使用に際しては事前にグループリーダーの承認を得ること。
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メイン用モニターには砂色の街並み、低層建造物が延々と続くミルタヤ市の光景が映し出されていた。点々と黒煙や火の手が上がり、時折対空砲と思しき火線が上空に向かって伸びる。
7番機は現在、反政府軍の勢力下で情勢が安定した空域を飛行中。
基本的にFQ-02は操縦桿等による操縦を要しない。AIによってあらゆる挙動がプログラミングされており、日本にあるこの会社からコマンドを入力・送信することによって指示に応じた行動を開始する。
啓斗は所定のチェックを完了し、あとは現地からの指示を待つだけ――――
その時、ピピピ………! と啓斗の席でコールが鳴った。
すぐに応答ボタンを押し、対応する。
「は、はい! こちら西日本軍事情報サービス、担当の銃岡………」
『近接航空支援を要請します。ラターキャ区にて戦車が前進しており、こちらが壊滅的被害を受ける可能性があります』
通話相手は現地語で話しているはずだが、AIを介して言語は日本語に、さらにオペレーターに過分なストレスを与えないように言葉そのものも穏やかなものに変換される。
また、依頼内容がチャット欄に簡易入力され、どこのポイントに何をするべきなのかもマップに複数のマークが表示される。
依頼は、前進し反政府軍を脅かしている2台の戦車の破壊だ。
包囲下にある反政府軍には現在、戦車を破壊できるだけの装備がなく、ラターキャ区内に突入された場合、防衛線は完全に崩壊する。
戦車の車種を確認。
東ロシア人民共和国製のT-91。最近政府軍に配備されたばかりで、冷戦時代前後の旧式しか持っていない反政府軍を性能と数で圧倒している。
そして戦車から少し後ろに離れた所に、数十人の歩兵が瓦礫や車の残骸を盾にしながらゆっくり前進していた。
その装備には政府軍しか運用しないものもあり、標的を誤認している可能性はこれでほぼ排除することができた。
「目標を認識しました。ご入金後、直ちに近接航空支援業務を開始します。ご希望のコースにつきましては弊社案内ページをご覧ください。口頭でのご案内を希望されますか?」
通話上での返答はなく、依頼人が希望する近接航空支援業務の内容やコースがモニターに映し出された。
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【ご希望コース】
・「空対地ミサイルでの敵戦車の破壊(2台)」
・「敵兵への掃射(機関砲500発分)」
【備考】
速やかな対処をご希望。
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2、3分後、ネットバンキングの通知欄がポップし入金が確定したことを確認。金額もご希望コース分支払われている。
「それでは入金を確認しましたので直ちに近接航空支援を開始いたします。【空対地ミサイルでの敵戦車の破壊】ミッションを開始いたしますので、敵戦車付近からの退避もしくは安全な物陰等への避難を200秒以内にお願いします」
その間にこちらも使用する兵装の発射前点検と攻撃コースの確認を行う。
FQ-02のAIが自己点検を行い、最適な攻撃コースを割り出す。啓斗の机の上に操縦桿の類がないことから分かるように、実際の操縦も全てAIが自動的に行う。
人間の役割は最終的な意思決定。啓斗がENTERキーを押すことで無人戦闘攻撃機は猛威を振るうことができる。
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【AGM-003 READY】
【ターゲット・ロックオン完了】
【飛行コースの算出・飛行準備完了】
【近接航空支援を行います。よろしいですか?】
《はい》《いいえ》
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そしてモニター片隅にポップしていた200秒のカウントが0になる。
啓斗はENTERキーを叩き、遥か南アジアを飛ぶFQ-02無人戦闘攻撃機の7番機に攻撃許可を与えた。
モニター中央に映し出されているHUDからの景色が緩やかに変わり、高度計の表示も徐々にその数値を減少させていく。
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【AGM-003 SHOOT】
【Fox2】
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一定の数値まで下がったところで、FQ-02は住吉重工製AGM-003空対地ミサイルを1発、発射した。ハードポイントから躍り出た火球がHUD映像越し、ボロボロの低層建造物が並ぶ陰鬱な街並みへと消えていく。
ミサイルの軌道を追尾する別のカメラ視点映像に切り替える。
細かい瓦礫を踏みつぶしながら進む2台の戦車。
その先頭の1台が、次の瞬間右上から突っ込んできたミサイルに装甲をぶち抜かれ、爆発・炎上した。後ろで随伴していた兵士が吹き飛んだのが見えたその時、光景は激しい爆煙に飲み込まれて視認不良に陥る。
か細い火線が上空へと伸びた。政府軍の兵士や戦車の機関銃が狂ったように上へと銃口を向け、乱射される。
だが有効射程の上空を飛ぶFQ-02にとって、大した脅威になるはずもなかった。
他に対空砲の類が無いか情報を探りつつ、啓斗は2台の戦車の破壊指示準備に入る。
ちなみに政府軍の主要対空火器の制圧は、数日前の敵防空網制圧ミッションによってほぼ完了している。
空対空系ミッションはかなり危険度の高い業務なので、啓斗のような新人ではなくもっと練度の高い上の部署が担当する。西日本軍事情報サービスや他の民間軍事会社との合同敵防空網制圧・破壊チームによって、ものの1週間でミルタヤ市における政府軍の防空システムは壊滅状態に陥っていた。
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【AGM-003 --READY--】
【ターゲット・ロックオン完了】
【飛行コースの算出・飛行準備完了】
【近接航空支援を行います。よろしいですか?】
《はい》《いいえ》
<---------------------------------------->
啓斗はENTERキーを押した。
再びAGM-003が解き放たれて地上へ。
戦車はFQ-02の存在にようやく気が付き、後退しようとしていた。だが、戦車の最大速度では到底音速で飛ぶミサイルから逃れることはできない。
十数秒後、モニターの中で戦車が爆発・炎上した。
残りは敵兵への掃射。
政府軍の兵士は虎の子の戦車が破壊された時点で後退を始めていた。が、それは前進してきた歩兵部隊が後退しているだけであり、戦術マップの配置図を見れば包囲網は全く解かれていないことが分かる。
どこの歩兵部隊に攻撃すれば良いのか。戦術マップ上では既に依頼人からの指定が表示されていた。
攻撃希望地点は3つ。
1つ目はラターキャ区の外縁に建つ、ミルタヤ市でも有数の高層ビル。スナイパーが配置され、ラターキャ区内での反政府軍の動きを阻害しているようだ。それに反政府軍と一緒に取り残された市民も。
2つ目と3つ目は今現在戦闘が行われている政府軍と反政府軍の支配地域の境目。
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【JM121-A --READY--】
【飛行コースの算出・飛行準備完了】
【近接航空支援を行います。よろしいですか?】
《はい》《いいえ》
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機関砲を用いた近接航空支援業務の場合、対空火器類が付近に存在していないが戦術マップに表示が無いかチェックしなければならない。戦術マップには提携している航空系民間軍事会社が飛ばす偵察機からの情報や、地上からの情報も提供があれば反映される。
全てのチェックを完了し、啓斗はEnterキーを叩いた。
後は全自動でFQ-02が3つのターゲットにそれぞれ機関砲を叩き込んで終わり。
機関砲の有効射程内まで機体が降下する。うらぶれた街並みがはっきりと見えてきた。
ラターキャ区でもひときわ背の高い高層ビルに150発を発射。倒壊はしなかったが、半分から上は爆炎と煙に包まれた。
戦闘域にも突入し、2ヶ所目で150発。3ヶ所目で200発を発射。
その光景は―――実のところハッキリとはモニターに表示されない。
現地との通話同様に、モニターに表示される画像もAIがストレスになりうる要素を排除する。
例えば兵士が殺される光景はもとより、啓斗が今見ているモニターには人間の姿はハッキリとは映し出されない。基本的には画像から排除され、必要であっても白いシルエットで隠されている。
手の込んだ空戦系ゲームのマップのような、リアリティがありなおかつ非現実的な光景が、モニターの向こうに移る景色だった。
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【ALL WEAPON --EMPTY--】
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「この度は弊社のサービスをご利用いただき、誠にありがとうございました。またのご利用を心よりお待ちしております」
マイク越しに挨拶し、啓斗は【依頼業務完了】のコマンドをクリックした。
「音崎さん。ミッション、終わりました」
「はーい、ご苦労様。戦闘記録を整理して報告書を提出してね。………あ、そうだ。お昼の後、午後から総務の潤堂さんと市役所行ってもらっていい? 市と国に提出する書類を運ぶの手伝って欲しいって」
「あ、了解です」
「よろ~」
依頼されたミッションは完了。機体の方はすでに保有兵装を全て使い果たしたことから自動的に帰投コースに入っているが、仕事はそれで終わりではない。
戦闘記録―――兵装の使用記録やAIの思考データ、当時の戦況等をまとめて報告書として出力する。報告書の最後にはオペレーターのコメントを入れ、反省点や改善できる点があれば付け加えていく。
作業は全てマニュアル化されており、研修も充実していることもあって、啓斗は特に困ることなく40分ほどでグループリーダーの音崎さんに提出完了した。
そしてその5分後、モニター左下の時計表示が【12:00】を指した。
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【設定業務時間終了まであと5分となりました】
【オフライン処理を開始してください】
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総務の潤堂さんの手伝いから戻ると、啓斗はまた7番機を使ったオペレーター業務へと戻った。午後からは戦闘に関わる依頼を受けることはなく、主に偵察ポッド機材を用いた高高度からの偵察任務。反政府軍や民間軍事会社からのデータ送信依頼を確認し承認し報告書や頼まれたデータ作成などをして、啓斗はそのまま夜9時の就業時間を迎えた。
「お疲れ~。じゃあ、システムをオフラインにして帰っていいよ。後でスマホチャットで明日の予定を送るから、寝る前にでも見といてね」
「分かりました」
それじゃあ、お先に失礼します。と啓斗はパソコンをオフラインに、まだ残る音崎さんに挨拶して会社を退社した。
啓斗の家は会社が入るオフィスビルから自転車で20分ほどの距離にあった。
駐輪場から自分の自転車を出し、カゴにカバンを突っ込んで帰路へ。途中、市内の駅前目抜き通りを自転車で横切る。
と、駅の大型ディスプレイが流すニュースが否応なく啓斗の耳に飛び込んできた。
『―――では、次のニュースです。内戦が続くヴルグでは、政府軍と反政府軍の衝突が激化しています。今日、反政府軍の支配下にあるラターキャ区において大規模な戦闘が発生し、双方に多数の犠牲者が出ている模様です。ヴルグ内戦については、国連安全保障理事会においてアメリカ、中国、ロシアがそれぞれの思惑から拒否権を乱発した結果、この問題に対して機能不全状態に陥っている他、民間軍事会社(PMC)が多数ヴルグ国内に参入していると言われており―――――』
アナウンサーの言葉を背に、啓斗は郊外にある2階建てアパートへと辿り着く。大学時代からの啓斗の自宅だ。
とりあえず晩御飯は冷凍チャーハンと冷凍食品を適当に、それにインスタントのスープ。
着替えてからパソコンを起動し、SNSを開くと、今日1日のタイムラインを大まかに追ってみる。
ニュース系アカウントをいくつかフォローしていることもあり、ヴルグ内戦に関する記事やコメントもいくつか散見していた。
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【ヴルグでの内戦激化。背景には「民間軍事会社」の暴走が?】
【今、反体制派の方が民間軍事会社雇って優勢みたいだけど。政府軍も雇ったらどうなるんだろうな。てか、向こうの方が金持ってるんだし】
【日本にも民間軍事会社があるよね。西日本軍事情報サービスとか】
【銃刀法・警備業法改正と最高裁判例によって事実上日本でも「民間軍事会社」の存在が認められるようになった。
⇒しかし、相変わらず銃火器等の保有はダメ! イミフww
⇒ただし海外で保有する兵器を日本に持ち込まなければOK!
例えば西日本軍事情報サービスとかは無人戦闘攻撃機を保有してるけど、日本にあるのは制御権のある端末とオペレーターだけ。だから現行法上、民間軍事会社として存在できる。
【国連安保理無能すぎw。一体何を始める気なんだよwwww】
【⇒第三次世界大戦だ(画像)】
【西日本軍事情報サービスがヴルグ内戦に参入しているけど、ホント最低! 爆弾落とす暇があるなら援助物資落とせ!!!!】
【⇒だが断る(画像)】
【⇒お前が落としてくるんだよ!!!】
【⇒在日米軍も一緒に連れてってください】
【⇒在日米軍「お金ないの。クスン」】
【⇒一方日本は「生産力税」なる逆累進課税で若者世代を貧困とパワハラに叩き込んだ後に法人税の大減税と在日米軍駐留援助費の引き上げを行った】
【⇒日本も内戦しようぜ】
【⇒日本で内戦起きたら反乱軍に加わる。自爆要員でもいいから雇って】
【⇒この爆薬満載のドローン操縦して自衛隊の戦車に突っ込んませてきてwww】
【⇒自衛隊員だけど反乱軍に加わるわ。護衛艦内のパワハラはヤバい】
【⇒この爆薬満載のドローン操縦して護衛艦に突っ込ませてきてwww】
【⇒一応機関室と火器保管区画に入れる権限持ってるから、直接爆破していいですか?】
【⇒ええよ!(画像)】
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………相変わらずSNSの世界は荒れてるな。などと感想を抱きつつ、出来上がったチャーハンを口に運ぶ。
晩御飯を食べながら行儀悪くSNSを見ていると、スマホがチャイムを鳴らす。スマホチャットに着信があった時の合図だ。
「えーと、どれどれ………」
発信元は【音崎さん(西日本軍事情報サービス)】
内容は以下の通り。
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【お疲れ様! 明日の予定表だから見といてね。細かい内容の変化はあるかもしれないけど】
《業務予定表(document—cr—nnc)》
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添付されていたデータを開く。
明日の最初の仕事に啓斗は目を落とした。
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①
【午前業務(予定):ラターキャ区への爆撃ミッション】
【依頼人:ヴルグ王国国防軍】
【使用兵装(予定):無誘導爆弾、機関砲】
【備考】
反政府軍との契約解消につき、政府軍と再契約します。誤認のないよう注意してください。
民間人への被害等については配慮不要です。
政府軍航空機も参戦予定。データリンク等の指示に従ってください。
(※)
政府軍航空機による化学兵器の散布も予定されています。画像が外部に漏洩しないよう情報セキュリティには十分注意してください。
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SNSのタイムラインではちょうど、援助物資を受け取って笑顔になる女の子の画像が映し出されていた。
(終)
ある民間軍事会社の平日 琴猫 @kotoneko112
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