第8話 エピローグ

 翌年の四月。

 僕は高校三年になった。


 今年は進学の年だ。新たな希望に胸が震える、と言えば言い過ぎなのかもしれないけど、そんな期待感に溢れる四月だった。


 始業式の恒例だろう。新任の教師の紹介があった。


 大体が他所の高校からの転勤で年配の教師ばかりだったのだけど、その中に一人若くて美人の女性がいた。あの、豊かな胸元は忘れようがない。陽子さんだった。


「生物担当の戎谷えびすや陽子ようこです。よろしくお願いします」


 これは晴天の霹靂へきれきだ。

 何で陽子さんがウチの高校へ新任で赴任してるんだ。


 僕は唖然としていた。


 周囲の男子生徒はざわめいていて「美人」とか「グラマー」とか「胸でけえ」とかそんな風な呟きが聞こえてきた。


 僕の姿を見つけたのか、陽子さんは片目をパチリと閉じて挨拶してきた。それで、受験を控え高揚感で盛り上がっていた気分は一気に消し飛んでしまった。


 これはまさか。


 女教師と男子生徒の間の禁断の恋が始まるのか?

 それとも陽子さんはよりを戻していて貞操な妻になっているのか?

 いや、他に良い人ができてて僕なんかお呼びではないのか?


 様々な思考が脳裏をめぐっていく。


 どれが正解にせよ、僕の高校生活最後の一年は楽しい事になりそうだ。陽子さんのあの胸の感触を思い出した僕は、一人でニヤニヤしていたのだった。


 始業式が終わり家に帰ろうとしていた僕は陽子さんに呼び止められた。

 陽子さんと校舎の片隅で話し始めた。


「やあ。久しぶりだね」

「はい」

「それでね。私はあれから離婚したんだ」

「それは良かったのかな?」

「うん。良かったよ。向こうのおじいちゃんが理解がある方でね。私の話をちゃんと聞いてくれたんだ。それで、お詫びにってこの高校へ来れるように手配してくれた」

「え? そんな事ができるんですか?」

「地元の名士って言ったじゃん。代議士だよ」

「ああ……」

 

 なんてこった。

 陽子さんは代議士の家と戦うつもりだったんだ。


「海斗ありがとう。あの時、君に勇気をもらった。だから今の私がある」

「はい」

「だからその……私と付き合って欲しい。こんな年上でバツイチでごめんなさいなんだけど」

「はい……嬉しいです。僕は陽子さん以外に彼女なんて考えられません」

「ありがと」


 陽子さんは僕の唇にそっとキスしてくれた。


 去年の夏の記憶がよみがえる。

 陽子さんと遊んだのは二日間だった。

 でも、その眩しい煌めきが僕の前に戻って来た。こんなに嬉しい事は無い。彼女と共にこれからの人生を歩むんだ。


 僕の心はそんな期待感に満ち溢れていた。


 

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海が太陽のきらり☆彡【恋愛編】 暗黒星雲 @darknebula

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