第16話:普通の女子高生とくらす。

「ねえ、由良くん。俺疲れたんだけど」

「ボス。…あんたが居なくなってたせいで僕がどれだけ苦労したか分かってます?毎日毎日他の四天王が悪事を重ねて収集つかなくてボスの代わりに下っ端に指令出さなきゃいけなくてその傍らボスの行方探さなくちゃいけなくて」

「うるさ……。てかその割に由良くん、バイト先の飲み会とかサークルの合宿とかいってなかった?てか俺のこと雑に扱ってたよね?あの時のこと謝ってくんない?ねえ、俺ボスだよ?」


 俺がそういうと、由良くんは「すみませんでした」と斜め上を向いてちっとも反省していなさそうな顔でそう言った。こいつ、魔法少女の青に対しての方が、もっと敬意払ってなかったか。……いや、でも一応俺のこと探してくれてたみたいだし、今日のところは許してやるか。


 今日の悪事ノルマは終わっていた。が、俺は未だに風呂に入れそうになかった。なぜなら俺がいない期間に下っ端の人数が少なくなってしまっていたからである。今日も採用試験を行わなければ。悪事を行うにも、人手が必要なのだ。


「はい、次の人ー」


 廊下にいるであろう受験者に声をかける。次が確か、最後の受験者だった筈だ。俺は、由良くんから渡された履歴書に目を落とした。証明写真がない。舐めてんのか?……いやでも、悪の組織なら、このくらいの反骨精神が必要なのかな。


「次の人ー、入っていいですよー…、ふごっ!?」


 なかなか入ってこない受験者を再度呼んだ瞬間、口の中に何かが投げ入れられた。懐かしい味が口の中に広がる。こ、このおっさんくさい味は、まさか。おい、嘘だろ。



「志位さん、お久しぶりですね。あ、コネで雇ってください」

「おまっ、なんでここに!?」


 後ろで戦闘態勢をとる由良透流を抑えて、俺は玉座から立ち上がった。手元の履歴書を再度見る。通りで何も書いてないわけだ。

 

 あれから久しぶりに会ったピンクのアホ毛女子高生は、普通サイズになっていたけれど、その突拍子も無さは相変わらずのようだった。あたりめを齧りながら、「バイトさせてください、週2で」とかなんとか言っている。不採用に決まってんだろそんなもん。


 俺がそう言おうと口を開けば、女子高生は、鞄からチンアナゴの抱き枕を出して、マジックのペンをそれに近づけた。まさか落書きしようとしてんのか?!あの愛らしい顔に?!


「おい、なんてことすんだ俺の元相棒に!?」

「採用ですか?」


 悪の組織のボスを脅してきやがった。由良くんが「新しいの買いますから落ち着いてください」とかなんとかいっているがそういう問題じゃない。あれは俺の寂しさを紛らわせてくれた唯一無二の相棒なのだ。どこかにいってしまってがっかりしていたが、まさかこいつに奪われていたとは。何考えてんだほんとに。




「石油王が見つからないので、とりあえず志位さんで妥協することにしました」

「お前……、相変わらずブレねえな」




 普通の女子高生は、こうして結局、俺の居城に住み込みでバイトを始めることになった。元魔法少女の癖にやることがえげつないと評判だ。




 俺は複雑な気分で今日も役割をこなしながら、普通の女子高生と暮らしている。ねえ、誰か引き取ってくんない?

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ちっさい女子高生とくらす。 かいる @arumkkc-0504

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