第5話 守る
「何であんなものが……」
一度通り過ぎた爆撃機が旋回し、東の大通り方面からまた向かってくる。
「何をする気だ……」
警戒心を高め、爆撃機の動きに注視する。
周囲を旋回し完全にここに狙いを定めて行動しているのが分かる。
「もしかして、さっきの」
車の集団があれを?
視察団があの飛行機を呼んだのか?
憶測でしか判断出来ないが、これがやばいことだけは分かっている。
『よし、王子達は既に脱出している事が分かった。これより、東の大通りから北側に爆撃を開始する。各機持ち場に付け』
爆撃機が機体同士の間隔を広く取り、東から迫ってくる。
そして……
『ヒトヨンマルマル、”作業”を開始する』
爆撃機の下部ハッチが解放され、そこから爆弾が投下された。
************
”ドドドドドドドド”
という音と共に地面と空気が揺れていた。
「何でこんなことを……」
東から西に向かって飛行機が飛んでいく。
そして、広場に差し掛かると、
ド!ド!ド!ド!ドゴォォーン!!
「うわっ!!」
広場中央で連続して爆発した爆弾の衝撃波が四方に拡散し、南の大通りに出てその光景を見ていたラフィーの身体を吹き飛ばす。
その衝撃によってラフィーは少しだが気を失いかけてしてしまう。
「ぅう……嘘だろ……」
何とか身体を起こすラフィー。
しかし、身体には衝撃波で飛んできた細かい瓦礫によって至る所に切り傷出来ていた。
「あ、あれだけでも!」
痛む体を起こし、すぐさま家に向かって走り出すラフィー。
家の2階、かつての自分の部屋に走り込む。
悠長なことはしていられない。また直ぐに次が来る。
部屋に入り、一目散に切込みがある壁に手を伸ばす。傍らからナイフを掴み隙間にねじ込む。頭の中で『いそげ!いそげ!』と自らを鼓舞する。
いつもなら取り出すのにそれなりに時間がかかったが、今回は5分とかからずに引き出した。そして、木箱を掴み出す。
そこで、またしても異変が起きていた。
箱に施された赤い模様が、不気味に脈打ちながら光を放っているのだ。
またも困惑し、手が止まるラフィー。
しかし、そこにまたあの音が響き渡る。
”ドドドドドドドド”
今度は近い!
ラフィーは、自分の部屋から床と壁の崩れた部屋に足を進め、外を確認する。
”どうかこちら側ではありませんように”
という淡い気持ちは簡単に弾け飛んだ。
もう、目の前だ。すぐそこまで来てしまっている。
「もう……ダメだ……」
『……ラメ……』
「ここで終わりなんだ……」
『アキ……メ……ダメダ』
「え?」
一瞬どこからか声が聞こえた気がした。
ラフィーは爆撃音が迫る中耳を澄ます。
「……誰かいるの?」
『諦め…たらダメだ……』
「!?!?」
微かだが男性の声が本当に聞こえた事に驚き、ラフィーはそのまま質問する。
「誰!?何処にいるの??」
『諦めたらダメだ!!』
「ダメって言われても、もうそこまで飛行機が来てるんだよ!?」
『もう…死んでもいいのかい?』
「そんなこと……死にたくないに決まってるじゃんか!!」
『なら……早く箱に……』
「”箱に”って何!?」
『手を付けて……叫べ……』
叫べ!?
そんなことで何かが変わるとは到底思えない。
「何を祈れっていうの!!?」
『ラフィーは何を……守りたい……?』
「守りたい……ここを!!この家を!!庭を!!自分を!!!」
『……なら……箱に手を……つきながら……』
微かに聞こえる男性の声に従い、ラフィーは赤く光る箱に手を付き祈る。
「守りたい…」
『もっと……』
「守りたい!守りたい!」
『足りない……』
「守りたい!守りたい!守りたい!守りたい!守りたい!!」
『もっと……だ…』
声に煽られるままラフィーは大声で叫ぶ。
「守れぇぇえーーーー!!!」
『よく言った……!』
ラフィーの思いに叫びに応えるが如く、箱の中から赤い光を拡散した。
その直後……
ラフィーのいる南の区画に、死の雨が降り注いだ。
***********
「気持ちのいいぐらい、さっぱり無くなったな」
「はい、確かに」
北に2キロ程離れた場所に、ギムド王子の視察団が爆撃の具合を観察していた。
「あとは均し作業ぐらいか?」
「いえ、一度残骸の撤去をした後に消毒作業を一帯に行い、次に均し作業、その後は水道と下水の整備、区画の振り分け、そして……」
「あぁ、いいよそういうの。だいたいは分かっている」
「は、申し訳ございません。出過ぎた真似を致しました」
「よし、では1度戻るか」
「畏まりました」
ギムド王子は車の方に足を向け歩きだす。
その時、ドウムの腰に下げた無線機に連絡が入る。
『ドウムさま、こちらユニット1。作業を終了しました。』
「はい、ご苦労さまです」
『ただ1つご報告が…』
「はい、なんでしょう」
『申し上げます。南の大通りの広場側の区画、そこに立ち並ぶ家のうちの一件、破壊できませんでした』
「それはどういうことでしょうか?」
『端的に申しますと、何度か同じ場所に落としましたが、そこだけ当たらない、というより避けらたように感じました』
「……?それは事実なのですか?」
『はい、事実でごさいます』
爆撃部隊のリーダー、ユニット1からの報告にドウムとギムド王子は困惑した。
絨毯爆撃を行い、破壊出来ないものがある。
その様なもの、聞いたことがない。
「ドウム、貸せ!」
ギムド王子はドウムから無線機を取ると、相手を問い詰める。
「破壊出来ないとはどういうことだ!あれだけ落としたのだぞ!!」
『こ、これは陛下!?申し訳ございません!しかし、事実なのです。こちらの攻撃は一切が当たらず、全て弾かれているように見えたのです』
「弾かれる?弾頭がか!?」
『はい!そうとしか表現のしようがありません』
ユニット1からの再度の報告にギムド王子とドウムは目を見合わせる。
「ドウム、今からその場所に向かう」
「は!畏まりました」
そして、再度視察団は”死街”に向けて走り出した。
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