第4話 大切なもの

「ここがそうか」

「はい、ここが”死街”でごさいます。ギムド様」


視察団の一行は”死街”こと”ルイファンの街”に到着した。


「なるほど、死街か。確かに死の匂いしかしないな」

「かつての戦争による壊滅地域ですので、そのまま死体なども放置されております」

「臭くてかなわんな」


彼らがいるのは広場から北の方角。ラフィーとは真反対の位置にいる。

一行は大通りの中程まで来たところで途中に車を停め、街の視察を開始した。


「この街は全て一度更地にするしかないか」

「そうですね。計画では東と西の端に慰霊碑を設ける以外は、他は完全に開発区となりますから」

「だとさっさと片付けないとな」


ギムド王子はスーツの胸ポケットからスマートフォンを取り出すと、ある所に電話をかけた。


「あぁ……そうだ……。時間は……」


「……なら出していい……そうだ……大掃除だからな」


電話を終え、一行の方に向き声をかける。


「よし!!皆、一斉に離れるぞ!!」


「もしかして、もう?!」

「せっかちというか大胆というか」

「流石にいきなりとは」


一行の皆から声が飛ぶが半分諦めなのか、皆直ぐに車に再度乗り、エンジンをかける。


「ギムド様、どれほど離れますか?」

「そうだな。”絨毯”だから2キロぐらいあれば安全だろう。あの高台の方に向かえ」

「承知致しました」


ギムド王子達も車に乗り込み、エンジン音をけたたましくあげた後、一気に街を離れた。



************



ラフィーは手元から目が離せないでいた。

このブローチ、何故か気になる。


何でこの場所、この箱の中にあったのか。

何で石なのに僅かに光って見えるのか。

何でこんなにも目が離せないのか。


ラフィーの中のあらゆる神経が、このブローチに対して警戒信号を上げていた。


だからといって何ができる訳でもない。

ラフィーはどうにか目を離し、仕方なくもう一度箱の中にブローチをしまった。



ブオオォォォォン!!



「!?!?」


いきなりの騒音にラフィーの肩は跳ね上がった。


階段を駆け下り大通りに出ると、通りの広場を挟んで反対側の大通りを猛スピードで走り去る車の集団を見つけることが出来た。


「もしかして……」


あれはリサイクル商のジョブリスが言っていた偉い人達か?


確か中央の方を視察に来てるって言っていた。

でも何でここに?


ラフィーの頭の中には疑問が浮かんでは消え浮かんでは消えしていたが、答えは出なかった。


「……とりあえず戻さないと」


あまりの音に通りに飛び出していたため、ラフィーは大切なもの箱を元の場所に仕舞っていなかった。


家に戻り箱の元に戻る。

そして、もう一度箱の中にあるブローチに目をやる。

石の中から淡く黒く光が滲み出ている様にも見えるこのブローチは一体……


しかし、考えていても仕方がない。実際にこれは今、手元にあるのだ。

埒が明かないと判断したラフィーは箱に蓋をし、持ち上げて壁の中に戻し、壁のブロックで完全に閉じた。


ラフィーは1階に戻り、勝手口へと目をやる。


この小さな大切な場所を守る。

父が死に、母の命が奪われ、1人になったラフィーの唯一の心の拠り所を。


7歳で両親を失った時、そう誓った。



だから……



………ォォォオオ



「……?何の音?」



………ォォォォオオオオオオオ!!



「どっちからだ?」



オオオオオオオオオオオオオオオ!!!



「あれは……」



”死街”の上空を7機の大型爆撃機が横切った。



『ユニット1から7、現場上空に到達。これより作業準備に移る』




”死街”に死の雨が降る。

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