当日の夜に

 俺のくり抜いたランタンは机の上に堂々と乗り、大きなロウソクを飲み込んでいた。

 机にお菓子が広がり、何故かクラッカーも乗っている。

「クラッカーはまずいだろ。さすがに」

「もうほかの研究室帰ってるから問題ない!!」

 毎度主催は断言する。煙が探知しなけりゃいいんだ、と言っていた。

「にしても、被り物多いな。特に男ども」

 バッドマンは本当にバッドマンになっていたし、吸血鬼らしいものもいたが、骸骨やらなんやらいる。

「女子も怖ぇよ。夜道で会いたくねぇわ」

「これくらい普通よ。ねー」

「血糊どっから買ってきたんだよ」

 ワイワイ盛り上がるが、あと一人が遅れていた。俺たちは素直に待つ。

「最後に、顔出してお菓子食おうぜ」

「被ったまんまじゃ食えねぇよ」

 俺は黙っていた。ジャックになりきろうとしていたのだ。誰も咎めはしない。

「早く食いたいわぁ。特にかぼちゃプリン」

「力作です」

「皿用意足りないんじゃない?」

 そうやって、やってた時、最後の一人が来た。

「遅せぇよ!!」

 主催のツッコミが入ったが、全員が黙った。

 真っ黒ずくめの男が立っていたのだ。鴉を想像させるクチバシについた仮面をかぶり、ワイシャツもスエットも黒く、マントのようなものに包まれて、手にはステッキを持っている。何より、背中には大きな羽を背負っていたのだ。

「……お前、凝りすぎじゃね?」

 主催の声に、空気が綻んだ。

「何だーびっくりした!!」

「本当に、やるってなったらとことんやるよね」

 俺は固まる。周りは、アレが俺だと思っているのだ。確かに業績は積んできたが、あれは無い。あんな、艶のある生地を用意する金はないし、それにあの羽はなんだ。本物にしか見えない。奴は、黙ってコツコツと靴を鳴らす。これをまた周りは茶化しながら、けれど明らかに引いていた。ここまで要求されていないのは、俺でもわかる。

「では、全員揃ったってことで、やりますか!!」

 大きな声に、ガヤガヤコップに飲み物を注ぐ。みんな行き渡ったことを確認して、声を揃えた。

「trick or treat!!」

 わぁと盛り上がって、それから順々に被り物を外していく。だよねぇーとか、お前か!!とか、声が飛ぶが、俺の心臓は跳ねるばかりで、鴉から目が離せない。

「次、お前の番だ!!わかりきってるが!!」

 笑い声が響く。違う、と声は出てこない。男は仮面に手をかけた。ゆっくりと外されるものに、恐怖を感じるが、俺と目が合った瞬間、凍りついた。

「やっぱかよー!!」

「鴉やりたいとか、ネタバレてたもんな」

「本格的過ぎて、引いたじゃん」

 あはは、と笑う声に男は俺の顔で、ニヤリと笑う。俺は震えが止まらない。机のロウソクが揺れる。

「じゃ、次お前な」

 俺を指さされた。俺は動けない。待て。俺は俺だが、じゃあアレが俺だという状態で俺が出てきたらどうなる。ガタガタ震える手で、かぼちゃ手をつけた。

「焦らすなぁ」

「わかってるけどさぁ、雰囲気あるね」

 誰だ。俺は誰になっている。男はどうも虚ろな目で、俺の顔で笑っている。やめろ。目眩が止まらない。ゆっくりと被り物を外す。髪が先に出て、それからゆっくりと、被り物を地面に落とした。

「……は?」

 周りは微妙な反応をした。今すぐ鏡が見たい。

「お前、被り物の下に化粧は良くないだろ!!」

「しかもピエロって、ネタに走りすぎじゃん」

 じわりと笑いがおこる。あはは、と笑い声があがった。俺、はニタリと笑っていた。

 鏡。鏡はどこだ。ピエロって、白塗りにして口紅をベッタリ塗った、緑のシャドウのピエロか。もしそうなら、化粧を落とした時、俺の顔はどうなる。誰だ。俺の顔をするお前は誰だ。吐き気がする。

 俺に批判をあげていた友人たちは、しきりに好きなことを言ったあと、主催の言葉に耳を向ける。

「まあいっか。じゃあ、食おうぜ」

「ハロウィン最高!!」

「来年もやろうな!!」

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かぼちゃランタン 空付 碧 @learine

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