影と日常

やまくる実

踏切


ガタン ガタン ガタン


目の前を通過する列車に意識は引き戻された。


眠気を吹き飛ばすよう頭を軽く振り一歩前に踏み出した。



足が思うように進まない、目の前を小さな男の子が駆けて行った。

もう一歩、足を出す。


すごいスピードで腰の曲がったおばあさんが駆けて行き、目を疑う。


冷静になり辺りを見渡すと、目の前の踏切が消え、遠くに見える車が消え、


少し遠くに見える男の子が消え、おばあさんが消えた。



何処にいるか分からなくなり、身体が震えだす。


底が抜けて真っ逆さまに落ちる。


肌に刺さる空気に気が遠くなる。どこまで落ちて行くのか、

このまま死んでしまうのか。




苦しい、苦しい。





暗闇の中自分に巻き付くのっぺらぼう。




と思ったら、スッピンで一本線の目と言った表現がピッタリくる、

妻のノブコの顔があった。



苦しいはずだ。


俺の身体に巻き付いていてこれじゃあ身動き取れない。









物理的には苦しいのにホッとして暖かくなる自分が居る。



先は見えない。


分からない。



皆に追い抜かれてもいい。


何処でも良い。



間抜けなこいつの顔があれば。


それでいい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

影と日常 やまくる実 @runnko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ