豊かでディープな自然のなかで。

日本の国土の67パーセントは森林であるというデータがある。日本は自然大国だと言えるかもしれない。
このエッセイは日頃、その森や林を歩き、地道に昆虫などの調査に向かう人間のエッセイだ。

まずは自然界の博覧強記とも言える知見や実地で経験したことのエピソードがとても豊かだ。私たちがレジャーやキャンプ、登山でしか体験したことのない自然を、もっとディープに感じさせてくれる。

筆者の淡々とした口ぶりがいかにも仕事人気質で面白い。好きなことと仕事をどのように両立させているかといった大人の感覚も読み物として楽しい。
自然と関わる難しさや、季節によって変化していく自然への眼差しが素敵だ。

エピソードそれぞれで面白さが異なる部分も良くて、話の引き出しが豊富だと思えた。

私はベタではあるが『ホタル調査』の一番最初に描写される光景が気に入っている。筆者の確かな描写力を感じさせてくれるからだ。この筆者の小説はきっと素敵だろうと想像がつく。

きっとこの夏も筆者は森林で調査をしているのだろう。人工物に囲まれた都市では考えられない、気づきもしない自然のセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれる良エッセイです。