ある環境調査員のメモ

広瀬涼太

はじめに

 環境アセスメント、という言葉をご存じだろうか。

 アセスメントという言葉にはいくつか意味があるが、この場合は『評価』という言葉が一番ふさわしいだろう。


 道路・鉄道・空港・ダムなど大規模な工事が行われると、環境が大幅に変えられる可能性がある。

 そこで工事の実施前に、工事予定地とその周辺において現時点の環境の調査を行い、工事が与える影響を予測し、その後の事業を環境の保全に配慮したものとする。


 それが筆者の仕事、環境アセスメントである。


 以前は調査会社の社員であったが、色々あって会社は経営縮小、地方事務所がいくつか閉鎖となった。それに伴い、退社してフリーランスの調査員となり、自営業として同業者から仕事をもらって生計を立てている。

 そのため、上記の影響予測以降は調査会社および工事事業者の仕事であり、筆者の仕事は現地における環境調査がほとんどである。


 また、環境というのがどの範囲を指すのかにもよるが、ここでは自然環境、言い換えれば動植物のことになる。

 そのなかでも、筆者の専門は陸上昆虫類の調査。


 言ってしまえば、昆虫採集が仕事なのである。


 おまけに、仕事は結構ブラック。

 それについては、いくつかネタがあるので、おいおい書かせてもらうとする。


 昔はダムと、高速道路をはじめとする道路関係の仕事が多かったが、最近だと風力発電やメガソーラー関係の仕事が増えた。


    ◆


 これから道路を通す計画のある山に行く。


 道路がなくて不便なので、これから新しい道路を作るための工事を行う。そしてその工事の前に、環境調査を行う必要があるのだ。

 だから、計画地周辺には大きな道路は当然ない。工事が始まったら、工事用のダンプも通れるような道が作られるのだが、まだその段階には至っていない。

 軽トラが走るような林道があればいい方だ。電線を張るための鉄塔があるならば、その管理のための道があり、そこを利用させてもらうこともある。あとは、車の通れない登山道、そしてイノシシやシカの作ったような獣道けものみち

 地方によっては、人が通らないため山道に笹が繁茂していることもある。初めから道すらない、山の斜面を登ることも。


 そうして必死で歩き回った環境調査が終わって数年。

 工事が始まり、そして完成、道路開通。


 そうなると、その近くに旅行に行く予定か、別の仕事の話でもない限り、地方の道路を使う機会はほとんどない。

 便利になった道路の恩恵を受ける機会は訪れないのだ。

 比較的よく使うのは、新名神高速道路ぐらいである。

 まあ、そういう仕事なんだけど。


 そしてまた今日も、虫を探して道なき山々をゆく。

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