5冊目

 ____数日後。宮沢賢治短編集は二周目にさしかかった。



「……はぁ」


 今日の出来事を思い出すとため息が出る。私は何故、こんな事を考えなければならないのだろうか。

 最後列に座る私と運転手含め5人を乗せたバスは、夕日に照らされながら、朝と同じルートを反対方向に走っていく。見晴らしが良いこの日は、後ろを振り返ればまだ学校が見えた。

 じっと見つめていると、毎日授業を受ける教室の窓を見つけた。と同時に、今日の思い出がより鮮明に蘇ってきたのだった……。



 ____いつもと変わらない教室の風景だ。居る人も、一人を除いて入学時から同じクラスメイト。私からしたらただのノイズにしか聞こえない話し声の音量も、1学期と全く同じ。


 同じはずなのに、何かが違う。

 私は、些細な違いを生み出している人物に近寄り、違和感を生み出している人物について聞いてみた。


「ねえ、瀬戸せとさん」

「あ、逢瀬おうせさん。おはようございます。何かあるんですか?」


 その人の性格によってキツく聞こえてしまう言葉でも、瀬戸秋風あきかのふんわりとしている声なら、そんな風には全く聞こえないのが不思議で、でも納得する。私は、自分自身でもよく分からない事を考えながら話を進めた。


「いや、別に大したことないんだけどさ。もう一人が見えないんだけど、校内探検でもしてるのかなぁって」

「ああ、秋晴あきはは今朝突然熱が出て、今日休みですよ。確かに校内の隅々まで見て回ってそうなイメージはありますが」


 彼女は元気過ぎるので風邪なんか引かなさそうだなと思っていたが、免疫力は意外と平凡なのかもしれない。それにしても、人が一人いないだけでこんなに静かになるとは。


「それにしても、秋晴がいないだけでこんなに静かになるとは。誰かが隣のクラスに『やけにシーンとしてたけど今日どうした?』って聞かれそうですね」

「私tも同じような事思っ……」


「なぁ田中、お前のクラス今日めっちゃ静かだけど何かあった?」

「特に何もない。学年イチ……全校イチうるさい奴が来てないだけ」


 私と秋風は唖然した。……こんなベタなフラグ回収を見たの、いつぶりだろうか。


 しばらく目をぱちくりしていると、始業のベルが校舎内に鳴り響いた。

 ガタガタと音を鳴らしながら次々と自分の椅子に座っていくクラスメイト達。私もそろそろ座らないとと思い、自分の席に一歩近付くと、秋風が「あの」と言った。


「今日の放課後、図書室に来てください。話したい事があります」


 私は頷いて、秋風の2つ左の席に座った。



 今日は文系の授業が中心で嬉しく、こころなしかいつもより授業スピードが速かったように感じた。否、授業がストップされる原因がいない今日なのだから、気のせいではないだろう。


 頭のどこかで、嬉しいなと思っていると、いつのまにか6時限目が終わっていた。

 私は秋風と一緒に、同じ校舎にある図書室へ向かった。

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