2冊目
「あっ、後ろに2つ空いてる席ある!! あそこに座ればいいんですかー??」
「ラッキー、一番後ろ!!」
窓のすぐ隣、しかも一番後ろにある私の机。このすぐ右に晴れてる方が座り、秋風さんは一礼してからその右に座った。転校生が来たからって別に学校生活は変わらないだろうと思っていたが……油断していた、全くの想定外だ。一気に環境が変わりすぎている。
____中学校生活こそ誰とも深い関係を持たずに傷付かず、平穏に過ごそうと思っていたというのに。
秋風さんは見ているだけで疲れてくる隣の彼女をを静かにさせ、申し訳なさそうに此方に頭を下げた。クラスメイトも担任の先生も苦笑いしながら秋晴の方を見ている。
それにしても、二人の容姿は何処かで見た事がある気がする。腰の辺りまであるサラサラな髪、秋晴は茶色で秋風は黒。秋晴は制服を派手な色合いにしているが、別に校則違反ではない。目の色は秋晴の方が若干明るい、秋風はその色の眼鏡を掛けている。そして、白いヘアピンは、秋晴が本の形、秋風が万年筆のもの。……嗚呼、第5回カクヨムWeb小説コンテストのイラストか。まるで画面の中から出てきたようだ。
「ねえねえ、君!! 小説好きでしょ」
「は、はぁ……」
休み時間になるや否や、勢い良く私の机に飛び付いてきた瀬戸さんの晴れてる方。もう1人は、と見ると、早速大勢に囲まれていた。席に座ったまま投げ掛けられた質問に笑顔で答えている様子の彼女は清楚でおとなしめで、きっと恋する男子が沢山現れるだろう。
一方、何を思っているのかどんどんドヤ顔を近付けてくる彼女は、明るい性格なのは確かだが度が過ぎている。人気者になるどころか逆に全校生徒から引かれるタイプだ。……授業中も大声で独り言を言っていた、その時またもや苦笑いしていた人々の心には黒い感情が芽生えていたのだろう。
「小説好き同士仲良くしよーよ!! 名前は?」
「それは遠慮しとく……名前は
この人と仲良くするなんて御免だ。彼女に友達だと認識されたら最後、今より大きく鳴り響く騒音と共に毎日を過ごさなければならなくなる。
「可愛い名前だね!! よろしく空!!」
「逢瀬で良いから……よろしくする気もない」
「○○で良いってやつ普通は名前呼びをお願いする時に使うんじゃないのー!?」
鼓膜が破れそうな程大きな声を耳元で発せられ思わず耳を塞いだ。右にいる10人程の人々も引いている。「こいつの双子うぜぇ……」「仲良くなったらなんか大変そー」という声が聞こえ始め、それと同時に段々と黒髪の彼女の周りから人がいなくなった。
「すみません、秋晴が変な事言って……」
「変な事なんか言ってないよー?? ほら、転校先では趣味の事とかをとにかく話して友達獲得!! ってストーリーあるじゃん!!」
まるで幼稚園児の様にぶーぶーと言う彼女。秋風さんが「迷惑でしょ、一回喋るのやめようよ」と言うがまるで聞いていない。それに、とにかく話して成功するなんて都合の良い世界での話だ、大抵失敗する。ましてや小説の話なんてお洒落な女子生徒や運動神経抜群の男子等には分からない。
____私のように。
「それは貴方が好きと言ったライトノベルの空想の世界での事、現実世界はそんなに甘くないし。ましてや小説の事なんて引かれるし嫌われるし、現に私が嫌いになったから」
「なっ……!! そんな事本人に向かって言うなんて!!」
「ちょっ、秋晴落ち着いて……」
「最低!! 友達になんかならない、秋風がいるからそれで良い!!」
最高な事だ。私は彼女を嫌って、彼女は私を嫌って。隣の席なんて関係なく、人物関係図でも決して線が引かれない、そんな関係。でも彼女の性格には、言動にはとても見覚えがあるのだ。Web上で世界中何処でも閲覧できる情報ではなく、もっと近い者で同じ行動の人がいた。
____私だ。瀬戸秋晴は過去の私と似ている。
なので、どれだけ拒んでも関係図には線が追加されてしまうのだ、拒否したって私の世界と彼女の世界はどこかで混ざってしまうのだ。
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