記憶喪失の侯爵様に溺愛されています これは偽りの幸福ですか?
春志乃/ビーズログ文庫
序章
侯爵夫妻の初夜
「君と
私、リリアーナ・カトリーヌ・ドゥ・オールウィンがその言葉を聞いたのは結婚式を終えて初めて夜を共に過ごすはずのベッドの上でした。
私の意思の外で決められたあまりに急な結婚という人生の一大事を理解しきれず、
旦那様は冷たい表情をその美しい顔に
すらりと高い背に均整の取れた男らしい体つき、そして美しい
けれどシェードランプの
私の旦那様になった人は──六年前の戦争で王国の
旦那様は、かっちりとした
私は旦那様のその冷たいお顔と
「泣くな。泣く女は見たくない」
身を縮めた私が泣くと思ったのか
私は成人を
私が
当然、旦那様のことも何も知りません。ですので、これから少しずつでもお
けれど、婚約式の時は二回も目が合ったのですが、今日の結婚式では旦那様と一度も目が合いませんでした。下ろされたヴェールが上げられることもなく、参列者もほとんどなく、
「私は君と子どもを作る気はない。侯爵位もルーサーフォード家も私の弟に
続いた言葉に
冷たい表情の旦那様と目が合い、形の
「最初に言った通り、君と結婚したのは私にとって都合が良かったからだ。私は結婚などする気はなかったが、立場上、周りが
「……さ、三〇〇〇万リル?」
私は全身から血の気が引く音を聞きながら顔を上げました。
「貴族院の査問委員会に言えば、
すっと細められた青い瞳を見上げて、私は無意識の内に
私のことはどうなろうとかまいません。でも、実家にはたった一人、私の愛する弟がいるのです。あの子の未来を考えれば、逆らうことなどできるわけもありませんでした。
「妻としての責務は何一つとして果たさなくていい。夜会や茶会にも出なくていい。……とはいえ、十五歳と若い君の人生を
分かったな、と最後を
私は空っぽになった心をどうにかしようと
一カ月ほど前、婚約式を行った教会でお父様が何度も旦那様に「病弱で役立たずな娘でいいのか」と
「上の娘に比べて不器量な上に病弱で、引きこもっていたからろくに社交もできない役立たずの娘だがそれでもいいのか、上の娘の方がそれはそれは綺麗で
あの時、望まれて結婚するのだと私は涙が出そうになって、胸に感じたこともない温かな感情が去来しました。
私はこの結婚に僅かでも期待や希望というものを
「……
自分で
結婚するにあたって面倒がなく都合の良い私が良かったのです。
けれど、まさかお父様が三〇〇〇万リルなんて
私はひとりぼっちの
幸いなことに
自分をそう奮い立たせて、私は顔を上げました。
これが私と旦那様の結婚初夜の出来事でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます