第三章
踏み出す一歩 その①
それになんだかとても
もう一度、深い
ぱっと目を開けた先にあったのは、男らしい
おそるおそる顔を上げて、あやうく上げそうになった悲鳴をどうにか
そもそもどうしてこんなことになったのでしょうかと
昨夜は旦那様にディナーに
折角誘って頂いたのにディナーを台無しにしてしまった私を旦那様は
その上、私が零した過去の話を受け止めてくれたばかりか、旦那様は私と本当の
「ど、どうしましょう……っ」
申し訳なさが
すると、旦那様が、ふぁっと
「おはよう、リリアーナ」
「だ、だんなさまっ」
私の
「んー? ああ、そうだ、気分はどうだ?」
大きな手が私の頰を
「あ、あのっ、
「何もかも
そう言って、旦那様は優しく笑って下さいました。私は安心して泣きそうになるのをこらえながら、「ありがとうございます」と
「そろそろ朝食の時間だが……」
「で、でしたらもう起きませんと……っ」
このままでは私の心臓がもちません。旦那様は、私の心を
「なぁ、リリアーナ」
「は、はい」
旦那様は、なんだかとても優しい
「まず、私と食事するのに慣れよう」
「え?」
「私は君が怖がる外の世界からやって来た人間だ。その上、君を傷付けた人間だ。初めて会った時、君は私に
「え、えっと、あの、それは……っ」
「ああ、すまない。怒っているわけじゃないよ。君の話を聞いた今、
大きな手が
「ゆっくりでいいんだ、リリアーナ。だから、まずは私に慣れることから始めてほしい。そうして君の心に勇気が
「……はいっ」
その優しさが
「さて、では……ふむ。君はいつも自分の部屋で食事をしているんだったな」
急な話題の
旦那様は、少し考え込むように
「なら私も今日から君の部屋で昼と夜、食事をしよう」
「えっ?」
「
思ってもみなかった言葉に私は、返事に困ってしまいました。
すると旦那様は、
「私の
またあの甘い笑顔を
「ぜ、絶対に、怒らないでいて下さるなら……」
まるで
「私が君に怒られることはあっても、私が君を怒ることなんて絶対にありえない」
青い瞳はどこまでも
『ゆっくりでいいのですよ。
私は、どうしたいのでしょう。旦那様を知りたいのでしょうか、私を知ってほしいのでしょうか。知るということも知られるということもなんだか少しだけ怖いような気がするのは、真実というものが決して美しいことばかりではないからでしょうか。
でも、旦那様は昨夜、取り乱した私の事情を知ってもこうして優しく私を受け入れて下さいました。それだけで、あれほど感じていた
「……私も旦那様とお話が、してみたい、です」
情けなくも
「ありがとう、リリアーナ!」
「きゃっ、だ、旦那さまっ!」
はしゃぐ旦那様にまたぎゅうと抱き締められました。けれど、旦那様はなんだかとても喜んで下さって、朝の仕度を
けれどその腕の中の心地よさに
「エルサ、私、変なところはないですか? 大丈夫かしら?」
オロオロと部屋の中を行ったり来たりする私に、エルサは小さく笑いながら頷きました。
旦那様も
エルサが用意してくれたのは
「今日の奥様も大変、お可愛らしいですよ。それに旦那様
「だ、旦那様だから緊張するんですもの」
両手で胸を
朝食を終えた後は、いつもならお
「ねえ、エルサ」
私は足を止めて、どうしましたと首を
「……私、旦那様はもっと怖い方だと思っていたのですけれど、今の旦那様はあんまり怖くないのです。記憶を
エルサは私の言葉に少し考えるような仕草を見せた後、ふっと表情を
「ご安心下さいませ。旦那様は、本来はああいった性格でございます。奥様の前では
「そうなのですか?」
「はい。
「まあ、エルサったら。ふふっ、本当に
エルサがあまりにも
「でも、ありがとうございます。なんだか緊張がほぐれたような気がします」
「それは何よりでございます……あら、いらっしゃったみたいですよ」
コンコンとノックの音が聞こえてドアの方を振り返ります。エルサが応対に向かう背を見ながら、去ったはずの緊張がまたも私の心臓を
中に入って来た旦那様は
旦那様は、ぱっと顔を
「うん、とても可愛らしい。まるで愛らしい水の
するりと手を取られて手の
「十五点ですね。一応言っておきますと百点満点中の十五点です」
横から聞こえてきた声に顔を上げれば、冷めた表情を浮かべるエルサがいました。
「花束の一つも持ってきたらいかがですか?」
エルサは旦那様とその後ろに
「庭師のジャマルに
「日頃の行いのせいですね」
エルサは、なんだかとっても
ジャマルおじいさんは、
「ジャマルは奥様をそれはそれは可愛がっていますからね」
「そういった理由で旦那様は花を用意するのに失敗したのでございます」
「旦那様、お花が欲しかったのですか?」
旦那様は
きっと記憶
「旦那様、私があとでジャマルおじいさんに旦那様のお部屋に飾るお花をお願いしてみますね。ジャマルおじいさんは私のお部屋にもいつも綺麗なお花を
「え、あ、ああ、うん。ありがとう、リリアーナ……」
旦那様は驚いたような顔をした後、どこか遠くを見つめながらお礼を言って下さいました。
口元を手で
「リリアーナ、
そう言って旦那様が私に向かって、何故か腕を差し出しました。
一体、どうしたのでしょう。腕に何かあるのかもしれないと思い、顔を近づけますが、ほつれたり破れたりもしていません。もしや
するとエルサが私の耳元に口を寄せました。
「奥様、旦那様は腕を怪我したわけでも
まさか、と思いましたがエルサは優しい
大丈夫ですよ、とエルサが背中をそっと押してくれたので、一歩前に出ておそるおそる旦那様の腕に手を
「良かった。私では
旦那様の言葉に、とんでもありません、と首を横に振りました。
「こ、こういったことをして頂くのは、初めてなので……ふふっ、なんだかお
侯爵家に
ダンスのレッスンの時に相手役をしてくれたエルサとこうしたことはありますが、男性、それも旦那様にエスコートして頂くのは特別な心地です。これまで読んだ小説の中のヒロインたちも私と同じようにきっとドキドキふわふわしていたに
浮かれていた私はこの時、旦那様が真っ赤になった顔を片手で覆って
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