エピローグ
心地良い春風が日を浴びるごとに静かに膨らむ桜の蕾を撫で始めた頃—。
慎一と真智子は真智子が桐朋短大を卒業したのを機に入籍し、真智子は晴れて真部真智子となった。ふたりが同棲し始めてからまだ一年も経ってなかったが、慎一がますますピアノに打ち込むためにも真智子のサポートはこれからも必要だったし、音楽への情熱を通して結ばれたふたりの気持ちは堅かった。
「やっと、正式に籍を入れられるね。……もう、真智子のいない人生なんて、考えられないかな」
「……私だって、慎一に会えたから今でもこうして音楽を歩んでるのよ」
「一緒に暮らすようになってからもこうして支えてくれてありがとう。これからもずっと一緒に音楽の道を追求しよう」
「もちろん!……だけど、慎一の足を引っ張らないように気をつけないと」
「まさか……。足を引っ張るどころか、真智子のお陰で僕は堂々と舞台に立てるようになったんだから。これからもよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
慎一と真智子は婚姻届をふたりで練馬駅近くの練馬区役所に届けた後、街道を道なりに沿って手を繋いで歩いた。
「…そうだ。今日は記念に久しぶりに外食しようか。このところ、お互い、披露宴での連弾のことで根を詰めてたからね」
「そう……。私が慎一の足を引っ張ってね。ラフマニノフのピアノ協奏曲は迫力あるから……、諒さんのようには弾けないわ」
「僕がリードするから、真智子らしく弾ければいいよ」
ふたりは教会での挙式とピアノ演奏会を兼ねた披露宴を間近に控え、これからもふたりで追求していく音楽の世界から溢れ出す感動とともに深まっていくピアノへの情熱が切り開く未来を思い描き、胸が熱くなった—。
ピアニズム—Life with piano— 中澤京華 @endlessletter
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