もしもあなたが【主人公】になったら

もしも屋上で寝転がっているときに、

「君は【小説の主人公】に選ばれてしまったんだよ!」

と言われたら、あなたならどうしますか?
しかも相手は自分のことを【ヒロイン】と言って憚らない。
これが好きな女の子なら青春ラブコメに洒落込もうってものですが、【ヒロイン】こと藤倉巴さんは、距離感微妙な友達でもなんでもないあまりよく知らない女の子だったりします。しかも、この屋上でのみの世界でもって小説を完結させようとしているのです。
だから本作の【主人公】こと白川徹は、海に出掛けることも自転車のうしろに【ヒロイン】を乗せて坂道を登ることもしません。
ただ、屋上で会話を繰り広げるだけ。
だが、それが面白い。

言われてみれば、【主人公】と【ヒロイン】が居れば完了するはずの小説世界に、どうして海や自転車や朝日などと言う感動的なシーンが必要なのでしょう。……いやまあそれなりの理由がいくつもあるかとは思いますが、この作品はシーンを屋上に限定することによって、閉じた世界観をたっぷりと表現しています。徹頭徹尾、屋上以外の世界を切り離して。

この作品には一つ大掛かりな仕掛けがあって、それは物語の後半に明かされるのでここで言うわけにはいかないのですが、その事実を知ったとき、【読者】は確実に驚嘆するはず。

「やられた!」

と思う。
この、「やられた!」が実は、ストーリーとテーマに密接にリンクしており、一つの引き金になっています。これは超絶技巧と言わざるを得ない。唸りました。

小説とは、「読後に言い表せないなにかを心に抱かせるもの」だと思います。
これは、確実に、それがある。
正真正銘の小説。とくとご覧ください。

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