最終話 ガイラルディアのせい
~ 十月二十五日(金) 塒 ~
ガイラルディアの花言葉 団結
好きなのか嫌いなのか。
いつからだろう。
俺は考えることをやめた。
生まれた時からずっと。
隣にいるのが当たり前。
父ちゃんや母ちゃんよりも。
いつも一緒にいた存在。
幼馴染。
普通なら、小学校に上がれば。
他のお友達と遊ぶ機会も増えて。
離れるのが常なのに。
幼稚園の頃から不登校がちで。
小学校ではいじめられていた穂咲のそばには。
俺がいてあげなければいけなかったから。
離れるどころか。
常に俺の隣。
15センチ先には。
君の細い肩。
気づけば中学でも。
高校でも。
……生まれて来てから。
今まで。
ずっと、ずっとの当たり前。
そんなお花が。
今日はいない。
穂咲の代わりに。
机に活けたガイラルディア。
まるで穂咲のように明るく丸いお花が二つ。
俺に向かって微笑みかける。
ねえねえ、道久君。
面白いドラマが始まったの。
うるさいのです。
今は授業中。
金曜日の午後。
最後の授業。
……と、いう事は。
大阪での試験は。
そろそろ終わっている時刻。
先生に見つからないように。
机の下で、握りしめたままの携帯。
試験はうまくいって欲しい。
でも、離れ離れにはなりたくない。
いや、もうすぐ離れ離れになるのですけど。
いやいや、もしかしたらもうちょっと一緒にいられるかも。
いやいやいや。
いやいやいやいや。
いやいやいやいやいや。
いやいやいやいやいやいや。
ゆれるゆれる。
俺の気持ち。
風に吹かれて。
お花と共に。
でも、どれだけ思い悩んでも。
どれだけ抗ってみても。
大阪の学校ではなく。
近所の学校に穂咲が通うことになったとしても。
叶わないことが。
一つだけあるわけで。
……来年、一月。
最後の授業が終わったその瞬間。
俺の席は。
君のお隣りではなくなるのです。
卒業という言葉は。
誰にも等しく訪れる。
この間。
先生が言っていましたけれど。
俺にだけは。
卒業という言葉が。
みんなとは。
等しくないのです。
……みんなとは。
等しくないのです。
「おい、秋山」
「はい?」
「…………鳴ってるぞ」
先生に言われてその時初めて。
メッセージが届いていることに気が付いて。
反射的に席から立つと。
「穂咲ちゃん、なんだって?」
「試験、上手く行ったのか?」
「どうなんだよ秋山?」
「お、お待ちください。まだ読んでいないので……」
たかがメッセージひとつ。
だというのに。
画面をタップする指が。
こんなにも硬くなって動かない。
これを押したら。
その場で、卒業となってしまう。
妙な錯覚が。
親指に見えない鎖を巻き付けます。
「秋山。堂々と授業中に携帯をいじる気か?」
先生の一言に。
納得の頷きを返した俺が。
「では、廊下に行って見てきます」
いつものように席を離れようとするのを。
クラスの皆は一斉に。
そうはいくかと足止めします。
……俺以外という、いらん枕詞はつきますが。
世界の全てに優しい子。
愛すべき友。
そんな穂咲のことを。
こんなにも心配して下さって。
穂咲に代わって。
心から。
頭を下げる俺なのでした。
「では、どんな塩梅だったかお伝えしてから廊下へ行きます」
「いいからそのまま読めよ秋山」
「そうそう。一字一句漏らさず」
「いやですよ恥ずかしい」
さすがにメッセージを朗読するなんてできません。
ヘタなことが書いてあったら。
冷やかされる可能性すらありますし。
にわかに湧き起こるよめよめコールの中。
穂咲に優しい皆さんは、どうして俺には冷たいのかと。
ため息をつきながら、世の不条理を恨んでいたら。
「では、秋山。教科書を持って、俺が読んでいたところの続きから……」
「いやいやいや!」
ここであてますか!?
さすがに空気ってものを……。
「読む代わりに、携帯に届いた文面を読め」
「んなっ!?」
唖然とする俺をよそに。
クラス中から拍手喝采。
この先生が。
ここまで持ち上げられたことがかつてあったでしょうか。
「……こら。早くせんか」
「何という横暴。世界中が敵に回った心地です」
とは言え、これでは仕方なし。
俺は意を決して。
携帯に届いたメッセージを。
声に出して読んだのでした。
「…………おはようございます」
「「「「おおおおおい!!!」」」」
あのおバカ。
寝過ごしやがりました。
でも、皆さんが頭を抱える中。
妙にほっとする俺がいます。
「おい、秋山」
「なんでしょう」
「藍川に伝えておけ。今すぐ廊下に立っていろと」
そうですね。
今日の所は。
立つのは穂咲です。
だから俺は。
ガイラルディアを花瓶から抜いて髪に挿して。
そのまま廊下へ向かったのでした。
――穂咲の進路。
俺の進路。
そして。
俺たちの未来。
いったいこれからどうなるのやら。
不安を感じながらも。
それでも厄介をかけてくれる穂咲のことを。
今日はちょっぴりだけ。
嬉しく思う俺なのでした。
「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 25冊目📴
おし
「次の試験は、お前がその頭で代わりに受けてやれ」
「そんなバカな」
廊下へ出る直前に受けた。
不条理な命令。
……でも。
ひょっとしてバレないかもと。
そんなことを思った俺なのでした。
「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 25冊目📴
おしまい♪
………………
…………
……
穂咲の探し物も。
道久の進路も。
そして受験も。
すべてが次回へ持ち越しとなった25冊目。
さすがにもろもろ急がないと!
大丈夫なのか二人とも!?
ですが、次回。
とうとうどちらかの進路が決定しそうな気配!
「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 26冊目💒
2019年10月28日(月)より開始!
どうぞお楽しみに!
「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 25冊目📴 如月 仁成 @hitomi_aki
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