第5話 琵琶湖と滋賀県の関係……
サービスエリアで短い休憩を取って、健二の運転するトラックは再び高速を走り出した。今はどうやら三重県あたりを走っているらしい。
「高速道路って、景色があんまり変わらないからつまんない」
雅がキョロキョロと見回しながら愚痴を言う。
「さっき走っているときは富士山が綺麗に見えてたのに、ふたりとも寝てただろうが」
健二があきれたように言うと、
「そんなの見えてたなら、起こしてくれたっていいでしょ」
と雅は責任転嫁をしている。
「グースカ気持ちよさそうに寝てたくせに、よく言うよ」
さらりと受け流した健二は、少しずつ雅の取扱いに慣れてきたようだ。
車は順調に高速を西へ走っていく。新名神高速というらしい。天気がよくて、車の中はポカポカして琴美はまた眠くなるのを必死でこらえた。車にタダで乗せてもらって、寝てばかりも悪いと思ったのだ。
琴美は眠気覚ましに、少し話しかけてみる。
「この先の有名な場所って、何があったっけ」
「この近くなら、高速を降りたらまず伊勢神宮だろ? それから今から走る方向だと琵琶湖があって、それから京都だな」
健二はこの道も走り慣れてるのだろう、まったく迷いもせずに答える。
「伊勢神宮ってお伊勢さんっていうところでしょ? あたしはまだ行ったことないなあ」
「ああ、俺もこの辺りは下りることないし、全然知らないけどね」
健二と琴美がそんな話をしていると、うとうとと眠りかけていた雅が突然、
「琵琶湖と滋賀県って、どっちが大きいの?」
と、とんでもないことを言い出した。
あまりにも突拍子過ぎて、琴美と健二が笑い出すと、なぜ笑ってるのかわからないという顔で雅が二人を交互に見ているのだ。
「あんたね、あんまり笑わさないでよ。ああ、お腹痛い」
琴美は涙を流しながら、笑いころげている。
「えーっ? 私、何か変なこと言いました?」
どうやら本気で雅はそう思っているらしいのだ。
「あのさあ、それじゃあ琵琶湖が滋賀県より大きかったら、滋賀県の土地はどこにあるのよ」
「あっ、そうか。そうですね。変ですね」
「しかも、思いっきり滋賀県の人に失礼じゃん」
琴美に言われて冷静に考えた雅も、寝ぼけてたとはいえ自分がとてもおかしなことを言っていることにどうやらやっと気がついたようで、顔を赤らめた。
「おい、この子が行く大学って、大丈夫か。ちゃんとした大学なのか」
しばらくして、また雅がうとうととし始めたとき、黙っていた健二がそっと琴美に聞く。
「それがさ、女子大の中じゃ日本で指折りの学校なのよ」
「まじか。なんか危なっかしいなあ」
「まあ、学校の成績がいいって意外とあてにならないからね」
「なんて学校だったっけ」
「正式には、鈴の音学園大学よ。実はあたしも行きたかったとこだけど、いろいろあって受けなかったの」
「鈴の音……、前になんか聞いたことあるな。じゃあ琴美ちゃんの大学ってどこ?」
「明和大学ってとこ。この子と違って共学だけどね」
「えっ、明和?」
「うん、なんかあるの?」
「妹が卒業した大学だよ」
「じゃあ先輩だ。すごい偶然!」
「妹も先生になるために明和に行ったんだから、あながち偶然でもないかな。あそこって先生になる人が多いんだろ」
「そういえばそうだね」
琴美と健二は、ダラダラとそんな話をしている。どうやら二人はなかなか気が合うらしい。
そしてトラックは噂の滋賀県を通り過ぎ、京都に向かう。起きた雅が京都なら宇治のお茶が飲みたいと言い始めたが、そんな暇はないと健二に言われ、後ろ髪を引かれる雅であったようだ。
アナザースカイ 西川笑里 @en-twin
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