第92話 吹きさらしの草原

 あたり一面に広がる広大な草原。

 目を凝らしてもその果てを伺うことができない。

 なんとも壮大な空間が広がっていた。

 この光景を写真のように切り取って人に見せると、ここをダンジョンの中だと思う人はいないだろう。

 それほどまでに違和感がなく、自然で、きれいな場所だった。

 やわらかい太陽の光が降り注ぎ、気温も穏やか。

 時折サァーっと流れる風が気持ちいい。

 風が動く様子が合わせて揺れる草むらで視覚できる。


 ここは第31階層。

 記録によると吹きさらしの草原と呼ばれている場所だそうだ。

 このダンジョンは過去に召喚された勇者が踏破している。

 その情報が古い書物として残っており、歴史を紡いでいく過程でダンジョンの階層の名前が付けられたそうだ。

 第31~35階層が吹きさらしの草原。

 第36~40階層が汚染された湿地帯。

 第41~45階層が樹木茂る崖地。

 第46~49階層がアリアンロッドの迷宮。

 そして第50階層が宝物殿。

 どれも物々しい雰囲気が感じられる。

 第50層はアーティファクトや財宝が収められている場所なのだそうだ。

 まだまだ道のりは長い。


「では出発しましょうか。 出口は風が吹いている方角にあるそうです。 この階層は何度か着たことがありますので迷う心配もありませんので時々現れる敵に注意してください」


 うなづいたり返事したり各々違った反応を示す。


「キャンプ地点でお話しましたが、ここでは狼型の魔物が出現します。 群れで行動して一回に襲ってくる数も多いので、できるだけ囲まれないようにしてください。 草むらのせいで敵が見えにくくなっていますので、桜田さんの探知を参考に適宜対応していきましょう」


 桜田は常にスマホを確認しつつ周囲を警戒している。

 開けた場所であるため、索敵範囲も広く確保できているそうだ。

 確認できるのは大体半径1km程度。

 現在のところ確認できる敵はなし。

 穏やかな風に吹かれ、歩いて行く。


「私たちここの敵倒せるのかな?」


 東雲が語り掛けてくる。

 エクスキューショナーとの戦闘で経験値が入り、こちらもレベルアップしている。

 アリオーシュさんたちと力を合わせればなんとかなるはず。

 実際問題まだ敵に遭遇していないわけなので、どのくらいの魔物が生息しているかにもよるのだろう。


「正直、戦ってみないとわからないよな」

「だよね。 でも今日の飛騨君見てるとなんとなく安心できるんだ。 なんかこう、オーラみたいのが違うよ」

「そ、そうかな?」

「うん! なんかすごい頼もしい感じがする!」

「そう言われると照れるな。 昨日の一戦でだいぶレベルアップしたのかも。 東雲も結構変わってるような気がする」

「じゃあ、私も飛騨君がピンチになったら助けてあげないと! 大魔術師東雲梓にまかせなさーい!」

「じゃあ俺も助けて大魔術師東雲様ー!」


 ふざけてスザクも乗ってくる。


「き、聞いてたのスザク君……」

「えー? 何がー?」

「も、もうっ!」


 照れている東雲もかわいらしい。

 守ってあげたいこの笑顔。


「ったく、私がまじめに働いてるっていうのに」


 桜田がこちらを睨んでくる。


「まぁまぁまだ敵いないんだし、気楽に行こうぜ」

「スザクはいつも能天気よね」

「気を張り詰めててもしんどいだけだろ? 人生楽しくいかないと疲れちゃうぜ」

「それは私も同感だけど、昨日見たいな痛い思いはごめんなのよ!」

「だからお前はかすり傷だったじゃん……」

「血が出たのよ!? 私に傷がついたらどうしてくれんのよ、責任とれるの!?」

「せ、責任って重いなお前……」

「そういや桜田のスキルとかはなんか変化あったりしたのか? さっきチラッと聞いたけど半径1kmは索敵できるようになったとか?」

「ふふん、そうよ私の力も飛躍的に上がってるみたいだわ。 前は300~400mくらいしか索敵できなかったけど、今は大体そんくらいなら余裕よ余裕」


 自慢げに自分の能力を披露する桜田。

 スザクが。


「しっかしそれ便利だよな。 てゆうかどうしてそんな風にスマホ操作できてるんだ?」

「どうしてって私が改造したからに決まってるじゃない」

「改造……? 改造ってお前がやったのか?」

「そうだけど?」

「えっおまえ改造って意味わかってる?」

「あんた馬鹿にしてんの?」

「そうだけど?」

「私の真似すんな!!」


 桜田のパンチがスザクに炸裂する。


「いやでも、改造って……スマホって改造できるもんなのか?」

「まぁーね、ほら、私って天才じゃない?」

「……いや全然初耳なんだが、完全にアホの類だと思っていたぞ俺は」

「スザク君の言いたいこともわかるけど、実は桃ってすごいのよ」


 桃というのは桜田のことだ。

 東雲が桜田を呼ぶときは大体桃っていう。

 昔からの幼馴染だからな。


「梓も言いたいことがわかるっってなんなのよ……」

「でもテストでいい点とってるとこみたことないしな」

「学校の勉強なんかつまんないでしょ? あんなのまじめにやってる方が馬鹿みたいだわ」

「ま、まじかよ……」

「スザク君いつも赤点ギリギリだもんね」

「ギリギリっていうか前回のテストは赤点だったよな」


 話した通りチャラチャラしているような恰好をしているが桜田は実はすごい人だったりする。

 この索敵能力があるスマホもスキルに関係なく作られたものだ。

 もし、桜田のスキルがスザクと同じものだったとしても同じようなスマホを作ることができたはずだ。


「いやー前のテストはやばかったね」

「あんたは本物のバカじゃないの」

「それは否定しないぜ」

「……はぁそう」


 桜田がため息をつく。

 そんな掛け合いをしていると、桜田のスマホが反応し、遠くで何かが爆発するような音が聞こえた。


「あっ引っ掛かった。 敵が来たわよ! ふふふふふ、この距離だったら流れ弾みたいのもこないでしょ!」

「な、なんなんだよ今のは?」

「私と梓の合わせ技よ。 私のスマホと梓の魔法をリンクさせて、索敵範囲内に敵が入ると自動爆撃するようになってるの。 勝手に魔力もらって魔法使ってるだけだからわざわざ詠唱することも必要ないし完璧な作戦よ!」


 迫りくる敵を迎撃するべく各々は武器を取り構える。

 さて、自分の力がどのくらい通用するのか。

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落ちこぼれ現代魔法使いの異世界召喚 雲珠 @blueglass

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