二つの隣り合う国があるとき、その関係はしばしば難しいものです。お互いに相手が持っているものを欲しいと願うのはある意味当然の望みかも知れません。しかしそれをどういう手段で手に入れるか、そこに国を治める者の器量が試されるのではないでしょうか。
かたや豊かな森の資源に恵まれたシレア国。かたや海の産物には事欠かないテハイザ国。
中立を願う国。搾取を狙う国。
物語の前提となっている二つの国の関係からしてすでに波乱を感じさせます。
密かに自国を狙うテハイザへ表敬訪問するシレア国の王子カエルムと、親友のような頼もしい従者ロス。陰謀と策略の渦巻く世界で、二人はけんもほろろな相手の対応に辟易しつつ、持ち前の聡明さで少しずつ隣国の秘密を知っていくのですが……。
まるで見てきたかのような緻密な情景描写は、あたかもこの国が存在するかのようです。そして緊張した状況の中にもウイットのある会話。冷静かつ大胆な王子と従者のかっこよさにぜひとも惚れ惚れしてほしいです。
そして物語の要である「異変」。
二つの国で同時に起こった異変は、どちらも人の拠りどころとなるものを失うという、焦燥と不安をかき立てるものです。それは国を治める者も同じ。まるで国のあり方の危機を暗示しているようなこの異変に対し彼らはどう動くのか、そして相対する二つの国はどこへ向かうのか。それは後半からラストへかけての怒涛の展開でお確かめください。
ミステリアスな謎と見目麗しい男たちのドラマが硬派な文章で綴られる、読み応えあるファンタジーです。
表敬訪問した隣国でとある事件に巻き込まれ、奮闘する王子様の物語です。詳しい内容は作品ページのあらすじ、及び他の方の素晴らしいレビューをご覧ください。今すぐに読んでみたくなること間違いなしですから。
「奮闘」と表現しましたが、この言葉を使うのは正しいのか?そう考え込むくらい、王子カエルムは終始落ち着き払った、冷静沈着な人物です。八方塞がりとも言える状況の中、着実に小さな何かを掴んでいく安心感がとても心地よく、いつのまにかどっぷりと物語に潜り込んでしまっていました。
中盤までは比較的淡々と語られるのですが、ある時点からガラリと雰囲気の変わるスピード感のある展開。映像で見ているかのように入り込んでくる文章に、前作でも感じた作者さんの手腕をまたも見せつけられた思いです。
この作品で完結しているものの、残された謎もあるのは事実。読み終えたころには、続けて姉妹編へ手を伸ばしたくなるはず。
ただその理由は謎解きのためだけではなく、この世界にもっと浸りたい、彼らの物語をもっと知りたいと湧き上がる気持ちを抑えられなくなってしまうせいなのです。
即位を前に、近隣諸国を表敬訪問しているシレアの王子・カエルムが、従者のロスとともに訪れたのは、緊張関係にある隣国・テハイザ。
しかしテハイザでは、国の宝であり〈標〉でもある『天球儀』に異変が起きており、王子たちは災禍の種として、王との謁見を拒まれてしまった。
テハイザに留まる王子の元には、自国からも異変を知らせる手紙が届き、急を要する中、ふたりを取り巻く状況も、次第にキナ臭くなっていく。
果たして、彼らとふたつの国の運命や如何に──。
美しい筆致で描かれる、異世界を舞台にした本格ファンタジー小説ですが、世界の異変と陰謀に挑む、若き王子と従者がとにかくカッコいいので、皆様ぜひお読み下さい。
一緒に謎を追ううちに、夢中になること請け合いです。
姉妹編の『時の迷い路』はもちろん、番外編も併せて読みたくなるに違いありません。
『間違いなく君だったよ』と『とある従者と王子の在り方』は特にオススメです。
信頼の絆で結ばれた主従、美味しいですよぉ。